白衣３ ページ27
「美味しい！この天ぷらそば、なかなかです。」
「そうか、美味ぇか。」
外食...というと蕎麦屋にしか入らない俺は...やっぱり蕎麦屋にAさんを誘った。
おにぎりにかぶりつき、美味そうに蕎麦をすする姿を微笑ましく眺める。
「轟さん...食べないんですか？」
「お...忘れてた...。」
「忘れるって...アハハ、おかしい。」
口元を手で隠し、本当に楽しそうに笑うAさんが...あまりに可愛くて、俺はまた箸が止まった。
「轟さんの好物は何ですか？何だか...箸が進んでいない様なので。」
「蕎麦、蕎麦が好きだ。温かくないやつ...。」
「お蕎麦好きなんですか？なら食べて下さい。私が喋り過ぎ...なんですよね。」
おどけた様に肩を竦め、チュルッと蕎麦を啜る。
「いや、そんな事はねぇ。話してて楽しい。」
「じゃ、一つ質問...良いですか？温かくないやつって...冷たいやつじゃダメなんですか？」
「...冷たいやつじゃねぇ、温かくないやつが好きだ。」
「...ざるそばは冷たいですよ？」
「...まぁ、そうだな。でも温かくないやつ...何か...おかしいな。」
「その言い方だと、ぬるいのが好きなのかと思ってしまいます。あれ？って思ったので。」
首を傾げるAさんを見て、俺は吹き出してしまった。
「確かに...訳わかんねぇな。」
ポカンとしていたAさんも笑い出し、蕎麦を食うのも忘れて笑い合う。
「お仕事...大変そうですね。」
「俺の仕事知ってんのか？」
「えぇ、ヒーローですよね？」
ヒーローと言われて...思わず身構えた。
俺に近付いてくる女の大半はヒーローである俺が好きで、エンデヴァーの息子というブランドを求める奴ばかり。
「去年、お会いしましたね、事故現場で...。」
「覚えて...たのか？」
「はい、轟さんの病室でお会いした時に気付きましたけど、プライベートでお仕事の話をするのは気が引けて...言いませんでした。」
寒そうに手を擦り、はぁと息を吹きかけて空を見上げる。
そういう気遣いが出来る人なのかと...俺は嬉しくなった。
「あの時...医道さんの方がヒーローに見えた。」
「え？私が...ですか？」
「あぁ。見て見ぬ振りをする人間が多い中飛び出してきて...洋服汚れちまうのに処置をして...すげぇカッコ良かった。」
ポン...と何気なく頭を撫でてしまい、慌てて手を引っ込める。
「...わ、悪ぃ。手が勝手に...。」
目に涙を浮かべ始めたAさんを見て、そんなに嫌だったのかと即座に俺は謝った。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
