白衣２ ページ26
「次は〇〇駅、お乗り換えのお客様は...」
終電近くの電車に俺はぼーっと揺られている。
今日はトラブル続きで、あちこちの現場に振り回され、親父の代わりに頭を下げ...まぁ散々な１日で...。
ダメ押しに俺の車はバッテリー上がりで動かなくなり、仕方なく電車で帰る事にした。
気付かれて騒がれない様に、キャップを目深に被り、その上にパーカーを被せ、俯いてスマホを弄る。
暫くすると俺の肩にもたれて居眠りをし出した女。
(...邪魔...だな。)
イラつきながら顔を覗くと...。
「いっ、医道さん！？」
「...っ、はい！検温...」
俺の声に驚いて飛び起き、手に持っているはずのない体温計を差し出す素振りをする。
「え...あ...うー、恥ずかしい...。」
「わ、悪ぃ。俺が大声を出したから...だな。」
「あ、轟さん...でしたか。ごめんなさい。」
耳まで真っ赤にし、背中を丸めて小さくなった。
「今日は...病院は？」
「休みを貰って勉強会に行ってきたんです。」
「勉強か、すげぇな。」
「すごくないですよ。新しい技術があれば吸収したいだけです。それで楽になる方がいるのなら覚えておかないと。」
眠そうに目を擦り、グーッと伸びをする。
その時...「グ〜ッ。」と腹の鳴る音が聞こえ、Aさんの顔はまた真っ赤になった。
「あ...ご飯...食べ損ねちゃって。もう最悪、恥ずかし過ぎます〜。」
「そういう時もあんだろ。飯...俺も食ってねぇ。」
「お仕事...忙しかったんですか？」
「あぁ、食欲がなくなっちまう位にな。」
俺は微笑み、自分の腹をさすって見せる。
(不思議と...緊張しねぇな。)
元々人と話すのは得意じゃないというか、ついぶっきらぼうに話しがちな所があって苦手意識が先に立つ。
でもAさんと話すのは平気で、俺そのままの自然体で話せた。
「帰って作るのもめんどうだから、今夜はコンビニ弁当で済ませちゃいます。」
「なら飯食いに...一緒に行かねぇか？」
「お誘いは嬉しいんですけど、多分降りる駅違いますよね？私は〇△駅で降りるんです。」
Aさんに言われて確かに...と思った俺は、「同じ駅だ。」と嘘をつく。
せっかく恵まれたこのチャンスを逃したくない一心で...俺は家に帰るのを諦めた。
本当に降りるべき駅は〇△駅から10駅は先。
「そ、そうなんですか？それなら...ご一緒しよう...かな。」
はにかむ様な笑顔を俺に向け、無邪気に自分の腹をさすった。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
