桜１ 切島鋭児郎 ページ18
「うーん、ここの桜は綺麗だよなぁ。」
ガキの頃から毎年見に行く近所の公園の桜。
真下にあるベンチに腰を下ろし、缶ジュースのプルタブに手をかける。
ポカポカ陽気に包まれ、俺は大きな欠伸をした。
「隣...座っても良いですか？」
声のする方を見ると、同世代の女の子がニッコリと笑っている。
「っ、あっ、はい！」
「綺麗ですね、桜...。」
彼女はそう言って隣にそっと座ってきた。
「そうっすね。毎年見に来るんすよ。」
「毎年ですか？じゃ、ここはお兄さんの指定席なんですね〜。」
(...ん？お兄さん？)
どう見ても年下には見えない女の子。
目鼻立ちはしっかりとしていて、長いまつげが印象的。
ぽってりとした唇には薄らと色付いている。
「あ、私...何か変な事言っちゃいました？」
「あ、いや、俺よりも年下なのかなって。」
(表情に出てたか...。)
俺は焦って髪をワシワシとしながら苦笑いを浮かべた。
「今年で中３です。見えないですか？」
「中３！？すげぇ綺麗だから見えなかったっつうか...。俺は高２。」
「アハハ、やっぱりお兄さんだ。綺麗じゃないですよ〜。」
愛らしい声で笑うと桜の木を見上げて黙り込む。
「気ぃ悪くさせちまったかな？」
「あ、いえ。桜に見とれてました。お兄さん、明日も見に来ますか？」
「明日は学校だから、朝は見に来るかな？」
「なら私も朝に来ようっと！お兄さん、何時に来るの？」
ベンチから立ち上がり、俺を見下ろして聞いてきた。
長い黒髪が風になびき、サラサラと舞い上がる。
(綺麗...だな。)
「...お兄さん？」
「あ、あー、朝は７時位かな？」
「ん、７時にここで！さよなら！」
ブンブンと手を振り、楽しそうに駆け出して行く。
それがAと俺の出会いだった。
「あー、お兄さん早いなぁ。」
７時前にベンチで座っていると、セーラー服姿の昨日の女の子が駆け寄ってくる。
髪は三つ編みにしていて、また違った雰囲気で可愛らしい。
「お兄さんじゃねぇよ。俺の名前、切島鋭児郎ってんだ。」
「私はA。おに...鋭児郎兄ちゃんは雄英なんだね、凄い。」
俺の制服を物珍しそうに撫で、「ご利益あるかな？」と冗談を言った。
「俺なんかまだまだだぜ？もっとすげぇ奴が沢山居るからな。」
しばらくの間桜を見ながら話し、また明日の約束をして学校へと向かう。
(また明日...か。俺なんか誘って何が楽しいんだよ？)
それから数日間、毎朝公園で彼女と待ち合わせして桜を眺め続けた。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
