猫 爆豪勝己 ページ1
「あ？居ねぇんかよ。」
マンションの隣にある茂みを覗き込んで独りごちる。
毎朝会う黒猫の姿がそこに無かったからだ。
最初は猫か...だったのが、行ってらっしゃいと言うかの様にニャーニャーと鳴くそいつに挨拶するのが日課になっていて...。
気になって辺りを見回していると、背後から女の声が聞こえてきた。
「...あれ？黒ちゃん？」
そっと振り向くと、年若い女が残念そうな顔で茂みの中を覗いている。
「あ、おはようございます。」
俺の視線に気付き、その女はにこやかに挨拶をしてきた。
「おはようございます。って...猫っすか？」
「え、えぇ。ここに黒猫が居るんです。いつもここに居るのに今日は居なくて...。ご存知なんですか？」
「俺もそいつに挨拶すんの、日課なんすわ。」
女に歩み寄り、チチチチ...と舌を鳴らして呼んでも現れる気配が無い。
「そうなんですか？私だけだと思ってました！」
口に手を当て、少し驚いた様な顔をする。
「あいつ、誰にでも声かけとんのか。浮気もんかよ。」
ククッと笑いながら腕時計を見ると、そろそろ事務所に行かないとやばい時間になっていた。
「あ、ごめんなさい。引き止めちゃいましたね。私も仕事なので...失礼します。」
「いえ、大丈夫っすよ。じゃ、また。」
頭を下げ、ヒールの音をコツコツ鳴らして駅の方向へと駆け出していく。
(初めて見る顔だな？最近引っ越して来たん...か？)
「っ、...ぼーっとしてる暇ねぇ！まじでやっべぇわ！」
俺は駐車場に行き、急いで車に乗り込んだ。
次の日もそのまた次の日も...数日経っても黒猫の姿は無く、あの女とも顔を合わせていない。
黒猫の姿を探しながら、気付くと女の姿も探している自分に気付いて苦笑いをする。
(飢えとんのか...俺は...。)
いたって普通のＯＬって感じの堅物そうな外見で、華やかさがある訳でもなく、黒縁眼鏡をした背の小さい大人しそうな女。
どっちかと言えば俺には無縁の、いや...正直苦手な雰囲気。
(いくら最近女が居ねぇからって...情けねぇ...。)
気持ちを入れ替えようと思い切り伸びをし、ゆっくりと深呼吸をする。
「うっし！今日も気合い入れて仕事すっか！」
バシッと両頬を叩いて気合いを入れた瞬間、あの女の嬉しそうな声が耳に入ってきた。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
