銭湯９ ページ8
「ぼーっとしてっと...落ちんぞ。」
軽々と登ってきた勝己さんは、木の幹に座る私の肩をさり気なく抱き寄せた。
優しいとか嬉しいとか思う前に...照れくさくて...景色どころではなくなってしまう。
「ここの公園、見晴らし台からも夜景見えるけどよ、もっと高い所から見た方がよく見えんだろ？」
「う、うん。」
キラキラと点滅する光やビルや住宅街の灯り。
街全体の景色が見えて、確かに綺麗...だけど。
勝己さんから伝わってくる体温と甘い香りだけで逆上せて卒倒...してしまいそう。
(顔...暑い...。)
緊張に耐え切れず...ため息をつくと「つまんねぇんか？」と頭に顎を乗せてきた。
「つまんなくないけど...その...恥ずかしくて。」
「照れとんのか？顔見せてみろや。」
「えっ、嫌だ。見られたくないよ。」
「どんなブサイクな面しとんのか見せろ。」
私の顎を掴み、グイッと覗き込んでくる。
「んだ、残念。くっそ...可愛いわ。」
「かっ、可愛い！？あ、ここ暗いからね！」
フワッと顔が近付いてきたかと思ったら...頬に唇が...。
「えっ...！？えぇっ！？」
「てめっ...落ち...っ！！」
木の上だということも忘れ、思い切り体を丸めた私はバランスを崩し...前のめりに落ちていく。
落ちる！！と目を瞑った次の瞬間、勝己さんに抱きとめられていた。
「危ねぇだろが！怪我してぇんかよ！？」
「だ、だって勝己さんが！！」
「俺が...んだよ？」
「キ、キスして...くるから驚いて...。」
「わ...悪ぃ、何となく引き込まれたっつうか...まぁ、忘れろや。」
私を地面に下ろし、くしゃくしゃに頭を撫でて視線を夜景に移す。
「忘れろって...そんな都合の良い頭の創りしてないよ。」
「んなら忘れんな。」
「もう！どっち！？」
キスをされた事自体は嬉し恥ずかし。
でも勝己さんの真意が見えなくて...頭がパニクった。
(ついって...何！？まさか...遊べそうとか...思われてないよね。いやいや、ない！あぁっ...！)
「...んな事して...楽しいんかよ？」
私が頭をブンブン振り回すと、からかう様な口調で真似をしてくる。
「た、楽しいよ！」
「あ？目ぇ回るだけだろが。変な奴...。」
口角を上げ、ニヤッと笑った勝己さん。
(あ...人を好きになるって...こんな感じだったな。...忘れてた。)
甘く切ない気持ちが溢れ出し、久しぶりの恋の感覚に胸がぎゅっと締め付けられた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年3月25日 16時
