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「……そういうの全部覚えてるんですか？」
「全部ではありませんが、まぁ趣味のようなもので」
彼が今言った出来事は、1919年1月1日の出来事だ。約100年前。もしも私が彼のように普通の人間だったならば、世界史、だったか。その辺を取らなければ覚えもしなかった事だろう。
しかも、恐らく彼は私でも分かることを言ってくれている。もっと深堀したならば、当時を生きていた私ですら知り得ないことを知っていそうだ。逆に、こうして現代に受け継がれなかった私の身辺の事は、私にしか知り得ないだろうが。
「……あの、河村さん。その、私が言うのもなんですが、お時間大丈夫なんですか？」
「大丈夫、とは言えませんね。今もラインの通知が止まりません」
呑気に自己紹介なんてしてしまっていたが、彼は今頃オフィスで仕事をしている時間だと言っていた。こんなのんびりしていて良いのか。そう思い疑問を投げ掛ければ、やはりまずかったようだ。
「……行かないんですか？」
「まだ貴女がゲームに参加すると確定していないので、そのままこの場を立ち去ったらリスクが大きいでしょう。貴女がはいと一言言ってくださったら、僕も安心してオフィスに向かえるのですが」
策士だ。そう思った。そんな風に言われたらはいと言わざるを得ないことを、彼は分かってて言っている。掌で転がされてしまうのはあまりいい気分では無かったが、まぁ、今そんな無駄な意地を張ったところで、お互いになんのメリットも無いだろう。
「……分かりました。ゲーム、参加します」
「そうですか。ならば僕は安心してオフィスに向かえます。では有栖川さん、また明日ここで」
「あ、はい。また、明日」
現れるのも突然で、去っていくのも突然。彼は組んでいた足をほどくと、立ち上がりながらスマホと言われる長方形の物を取りだし、誰かに電話をかけ始めた。
出口に向かいながら会話をする彼の声が、風に乗って私の耳に届く。ごめんって、イザワ。人助けしたら道に迷ってさ。まぁ嘘だけど。いや、人助けは嘘じゃない。今？今交差点。と段々声が遠退いていき、やがて、彼の背中は見えなくなった。
さっきまでの喧騒が嘘かのように静かな屋上に、強い風が吹き抜ける。
「――――……変な人」
ぽつりと溢した言葉は、誰に届くこともなく、風に拐われていった。
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白菜(プロフ) - 歌さん» コメントありがとうございます！確かに今思うとぴったりですねw (2021年4月8日 13時) (
レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
歌 - この作品の後に『夜に駆ける』を聞いて号泣しました。最高でした！ (2020年9月7日 15時) (レス) id: 1444924b03 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 和奏さん» コメントありがとうございます。私もこの作品を書く際にはいろんな事を考えさせられました。その中で思ったのは、やはり人生は終わりがあるからこそ美しいんだろうなということです。顔も見えない奴ですが、最後の時まで和奏さんが笑顔でいれるよう、願っております。 (2020年8月14日 10時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - 私事になりますが、私は余命宣告を受けています。永遠があれば、と考えたことがありました。でも、白菜さんの小説を見て永遠なんて最悪だと思いましたね。大切な人の死は見たくない。白菜さんには毎回心を揺さぶられてます…今回も素敵な小説、ありがとうございました。 (2020年8月13日 10時) (レス) id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - はーちゃんさん» 書き始めた当初は終わりだけしか思い付いておらず、さてそこまでどうもって行くかにめちゃくちゃ頭を悩ませたんですが、そう言って頂けて嬉しいです。まさか後書きまで褒めて貰えるとは思ってませんでしたが(笑)こちらこそ有難いコメントありがとうございました！ (2020年6月12日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
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