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「…………自分が、分かりません」
夜風が、頬を撫でる。ふわりと髪が風に煽られ、染み付いた彼の香りが、ほんのりと薫ったような気がした。
自分が、分からない。なにもかもを、見失ってしまった。恋は盲目と人は言う。本当にそうだと、今身をもって実感している。
恋は、盲目だ。本来の目的を全て、忘れてしまうほどに。死ぬ為だった筈が、いつの日か、貴方に会う為だけにフェンスの外側に出てしまっているほどに。本来の目的よりも、貴方の事ばかり考えてしまうほどに。貴方に恋をしてしまった私は、どこまでも、盲目になってしまった。
「……しね、なかった……」
今この瞬間だって、貴方の前から飛び降りることは可能だ。誰も、それを咎める人は居ない。そもそも、彼とのゲームだって、馬鹿正直に守る必要なんかなかった。ルールなんて、ゲームなんて、死んでしまえばなにも関係ない。
ルール違反を出来なかったのも、ゲームに乗ってしまったのも、所詮言い訳作りだった。仕方ないからまだ生きようと自分に言い聞かせるための、死を遠ざけるための、ただの、言い訳。
後ろを振り返る。彼はあの日のように、肩で息をしていた。額に汗を滲ませていた。必死そうに、顔を歪めていた。
「っ……貴方は来なかったのに、私は……！」
どこかで、貴方は必ず来てくれると、信じていたから。
「私は、死ねなかった……っ」
貴方を、求めてしまったんだ。
止めどなく溢れる涙が、頬を伝い、やがて地面にシミを作る。視界が歪む。彼の顔すらも、見えない。貴方は今、どんな表情で、私を見ているの。今の私を見て、どう思ってるの。
あれだけ死にたがっていたのに、結局は死ねない憐れな女？どこまでも自分勝手で、勝手に苦しんでる、可哀想な女？
どう思われてたって良い。だから、中途半端な優しさを寄越さないで。死にたいなら死ねば良いと、突き放して。あばよくば、貴方のその手で、私を……終わらせて。
「A、さん」
「……貴方は、ここに来るべきじゃない。貴方には、もっと、大切にすべき存在が居るでしょう？」
こんな憐れで醜い私よりも、普通で、遠くから見ても可愛らしかった、あの女性を大切にすべきだ。こんなところに通うくらいなら、あの人と色んな所を廻るべきだ。
私なんかに優しくするくらいなら、あの人に、抱えきれないほどの愛を与えるべきだ。
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白菜(プロフ) - 歌さん» コメントありがとうございます！確かに今思うとぴったりですねw (2021年4月8日 13時) (
レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
歌 - この作品の後に『夜に駆ける』を聞いて号泣しました。最高でした！ (2020年9月7日 15時) (レス) id: 1444924b03 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 和奏さん» コメントありがとうございます。私もこの作品を書く際にはいろんな事を考えさせられました。その中で思ったのは、やはり人生は終わりがあるからこそ美しいんだろうなということです。顔も見えない奴ですが、最後の時まで和奏さんが笑顔でいれるよう、願っております。 (2020年8月14日 10時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - 私事になりますが、私は余命宣告を受けています。永遠があれば、と考えたことがありました。でも、白菜さんの小説を見て永遠なんて最悪だと思いましたね。大切な人の死は見たくない。白菜さんには毎回心を揺さぶられてます…今回も素敵な小説、ありがとうございました。 (2020年8月13日 10時) (レス) id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - はーちゃんさん» 書き始めた当初は終わりだけしか思い付いておらず、さてそこまでどうもって行くかにめちゃくちゃ頭を悩ませたんですが、そう言って頂けて嬉しいです。まさか後書きまで褒めて貰えるとは思ってませんでしたが(笑)こちらこそ有難いコメントありがとうございました！ (2020年6月12日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
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