。 ページ22
．
血を吐いた私が元気になったと言っても、なかなか母には信じては貰えなかったが、暫く経った頃には徐々に外で遊ぶことを許可してくれるようになった。
外を普通の子と同じように駆け回る私を見て、母が泣いていた姿は、100年以上経った今でもよく覚えている。
『おじさん、死んじゃったんだね』
『みたいね。心臓発作らしいけど、ほんとに急よねぇ。少し前まで元気だったのに』
あの時私の前に現れた近所のおじさんの名前は、訃報として耳に入れることとなった。家を訪れても既におじさんは居らず、そこは空き家となっていた。最近ではお化け屋敷だなんだと近所の子達が騒いでいる。
近所の人から聞いた話によると、心臓発作で亡くなったというおじさんの死に顔は、死人とは思えないほど幸せそうだったという。まるで何かから解放されたかのように安らかに眠っているおじさんに、見送った人達も笑顔を貰っていたと言っていた。
彼が謝っていた理由が、その時の私には分からなかった。何故謝るのだ。私の病気を治してくれたのに。
だが死んでしまった彼に直接「どうして謝ったの」とはもう聞けない。だから私は、毎日空に向かって感謝を伝えた。
――彼が謝っていた、本当の意味を知る日まで。
『おか、あ、さん……？』
彼が謝っていた意味を知ったのは、母の死だった。母は当時の時代にしては、かなり長生きだった。兄弟達が皆戦争や病気で他界していくなか、母だけはずっと私の傍に居てくれた。
全く容姿が衰えず、不気味がられて避けられていた私を、唯一傍でずっと支えてくれていたのは、母だけだった。心の支えは、母だけだった。
その母が、死んだ。受け入れるのは、かなり困難だった。永遠の眠りについた母は、安らかな顔をしていた。まるで未練など無いとでも言いたげな表情。けれど、たとえ母に未練が無いとしても、私には未練だらけだった。
『……なん、で、みんな……わたしを、おいてくの……』
そこで漸く気づいたんだ。彼が謝っていたのは、こういうことなのだと。きっと彼も、同じことで悩んでいたんだ。周りは皆、自分を置いていく。自分は、決して後を追うことができない。
母が死んだ今、私がこの世に残り続ける意味なんてものは、もう無かった。今すぐにでも、この命を投げ出したかった。母が居ない人生に、意味なんて無い。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 333人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白菜(プロフ) - 歌さん» コメントありがとうございます！確かに今思うとぴったりですねw (2021年4月8日 13時) (
レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
歌 - この作品の後に『夜に駆ける』を聞いて号泣しました。最高でした！ (2020年9月7日 15時) (レス) id: 1444924b03 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 和奏さん» コメントありがとうございます。私もこの作品を書く際にはいろんな事を考えさせられました。その中で思ったのは、やはり人生は終わりがあるからこそ美しいんだろうなということです。顔も見えない奴ですが、最後の時まで和奏さんが笑顔でいれるよう、願っております。 (2020年8月14日 10時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - 私事になりますが、私は余命宣告を受けています。永遠があれば、と考えたことがありました。でも、白菜さんの小説を見て永遠なんて最悪だと思いましたね。大切な人の死は見たくない。白菜さんには毎回心を揺さぶられてます…今回も素敵な小説、ありがとうございました。 (2020年8月13日 10時) (レス) id: ea0b227b7d (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - はーちゃんさん» 書き始めた当初は終わりだけしか思い付いておらず、さてそこまでどうもって行くかにめちゃくちゃ頭を悩ませたんですが、そう言って頂けて嬉しいです。まさか後書きまで褒めて貰えるとは思ってませんでしたが(笑)こちらこそ有難いコメントありがとうございました！ (2020年6月12日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
