進むために ページ20
｢よし、帰るかな｣
私が落ち着いた頃にベクはそう言って立ち上がり伸びをした。
それに倣って自分も立ち上がる。
もうベクがここに来ることは無い。
こうやって送り出すのも最後。
今日が全部最後なんだ。
｢雨ひどいから気を付けて帰ってね？傘、貸すから｣
｢んーん。いらないです｣
｢え？だって雨さっきより酷いよ？｣
｢傘返す口実で会いに来たくなりそうだから、いらない｣
おどけて言う訳でもなく、真面目な顔でそんなことを言われてまた泣きそうになってしまった。
泣かないようにぐっと唇を噛んだまま小さく頷くしか出来なくて無言の時間が続いた。
｢…じゃあ｣
先に口を開いたのはやっぱりベク。
全部全部ベクが先にするんだ。
｢また、月曜に｣
会えなくなるわけじゃない。
これからも毎日のようにベクに会うことは出来る。
でも、今までのベクに会うことはもう出来ない。
｢…うん｣
口を開けると他の言葉が出てきそうだったから、口を閉じたままそれしか返せなかった。
情けないな、本当に。
ベクは薄く微笑むと玄関のドアを開けて振り向くことなく出て行った。
閉まったドアの音が私たちの間にあった繋がりを断ち切ったように聞こえて抑えていた嗚咽が漏れ、その場にしゃがみ込んだ。
もうドアの向こうにベクはいないのにそこから離れたくなくて動けない。
声を押し殺しても漏れてくる嗚咽を手で塞いで止めようとしたけどそんなもので止まってくれるはずもない。
本当に自分勝手。
ミンソクさんを好きで、ミンソクさんに気持ちを伝えると決めたのに。
ベクが離れていくと寂しくて苦しくて縋りたくなるなんて。
｢寂しいよ…｣
ボロボロの声は誰にも届かない。
自分で立ち上がるしか無いんだ。
どれくらいそうしていたのか分からない。
鼻をすすりながらゆっくりと立ち上がって部屋に戻り窓の外を見た。
雨は強く街を打ち付けて遠くで雷が鳴っている。
こんな中をベクは傘もささずに帰ったんだ。
進まないと、私も。
私だけまだ同じ場所にいる。
全部無駄にしちゃいけない。
もっと自分を変えないと。
表なのか裏なのかもうどっちかも分からない自分の顔は捨てる。
変わらないと、一生自分のことを好きになれない。
皆の前では頑張るから。
だから、誰もいない時は弱くなっても良いよね？
ベクと顔を合わせた時、ベクがいつも通り振る舞うのを見た時に泣いてしまわないように。
今日はたくさん泣くんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1029人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「EXO」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みつき - オトナの恋物語という感じで私には苦くて酸っぱくてそしてほんのり甘かったです。お互いを思いやったり気持ちを押し殺したりリアルで切なかったです。ありがとうございました！ (2019年6月12日 4時) (
レス) id: bd38120f18 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - ソルさん» お返事遅れて申し訳ございません！わ、読み返してくださったんですね(;_;)イムさんのことまで好きだと言ってくれてめちゃくちゃ嬉しいです...番外編もツイッターになってしまいますがよろしくお願いします！！ (2018年8月23日 18時) (レス) id: 16d69035ac (このIDを非表示/違反報告)
ソル(プロフ) - 最初〜読み返してしまいました！しうちゃんとくっ付いて嬉しかった反面、べくが切なくて...でもきっとベクをたくさん愛してくれる相手に出逢えますよね^ ^イムさんも、なんか好きでした！その後の2人とベクイムさんも楽しみにしています♪Kさんお疲れ様でした！ (2018年8月15日 14時) (レス) id: 0f050d23ca (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - あまいくりーむさん» いつもコメントありがとうございます！そんなふうに言っていただけて本当に嬉しいです...息抜きや楽しみになれていたなら本望です！本当にありがとうございましたー！！ (2018年8月11日 12時) (レス) id: 16d69035ac (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - みんみんさん» コメントありがとうございます！ミンソクさん派だったのですね！結末に満足して貰えたようで嬉しいです(^^)こちらこそ最後までお付き合い頂いてありがとうございました！またどこかでお会い出来れば嬉しいです！ (2018年8月11日 12時) (レス) id: 16d69035ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K
| 作成日時：2018年5月26日 23時
