ナイフ ページ43
*
｢先輩、卒業しても来てくれますか？｣
｢……ううん、来ないと思う｣
｢そっか｣
笑いながら、でも寂しそうに少し下を見るベク。
日が落ちてきてオレンジ色が窓から差し込み、ベクを色付けて行くのを眺めた。
こんなに静かなベクを見るのは初めてかもしれない。
入部の時から騒がしくて誰よりも笑って誰よりも音楽が好きだった。
｢ねえ先輩｣
｢ん？｣
｢もうここに来ないなら会えるのは今日で最後かもしれないですよね？｣
｢そうだね｣
ほんの少し泣きそうになった。
最後なんて、寂しいこと言うんだな。
それでも微笑んだまま視線を向けると、ベクも微笑んでいた。
オレンジ色が凄く綺麗。
泣きたくなるくらい綺麗だ。
｢最後だから、伝えたいことがあります｣
そう言ったベクの顔は何かを決意した時の顔。
真剣な顔に戸惑って視線が少し揺れてしまった。
｢その前に…先輩は、ここが好きでしたか？｣
｢え？どういうこと…？｣
｢友達の誘いで入ったじゃないですか。先輩はこの場所にいて、幸せでしたか？｣
それは、どういう意味だろう。
もちろん好きだったし幸せだった。
そうじゃなかったら卒業まで続けてなんかいないのに。
ベクには…そうは見えなかったってことなの？
こんなにここが大好きだったのに、それは少しも伝わらないの？
そう思ったら視界が一気に滲んだ。
最後の日にこんな思いはしたくなかった。
幸せな思い出のままここを後にしたかった。
｢先輩！？え、どうして…｣
慌てたようなベクの声と咄嗟に出たような手は私の手首を捉えた。
｢私は…｣
それでもなんとか自分の気持ちを伝えようとした時、廊下から複数の声が聞こえてきた。
女の子の部員2人とチャニョルの声。
次第に聞き取れるようになってきたその会話に、頭が真っ白になっていく。
｢A先輩って良く分からない人だったよね〜｣
｢ね！最後まで距離感掴めなかったわ｣
｢そう？俺はそんなこと無かったけどなぁ｣
｢チャニョルは誰とでも仲良く出来るでしょ｣
｢A先輩ともあんな気楽に話せるなんてね〜尊敬する｣
｢誰でも普通に話せるでしょ｣
｢いやいや、だっていつもオドオドしてるし先輩なのに腰が引けてるっていうか｣
｢そう！部活最後の日もさ〜｣
ベクは掴んでいた手首をぎゅっと強く握った。
自分が小刻みに震えているのが自分でもわかった。
私がここを好きでも、居場所はここではなかったんだ。
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K(プロフ) - さえさん» そう言っていただけるととても嬉しいです(;_;)コメントもたくさんくださって本当に力になっています！ありがとうございます！！ (2018年3月15日 18時) (
レス) id: 16d69035ac (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - グロリオサさん» 他の作品も読んで下さっているんですね、ありがとうございます…！ありがたいうえに私には勿体無い言葉ですがとても嬉しいです！これからもよろしくお願いします(^^) (2018年3月15日 18時) (レス) id: 16d69035ac (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - 暗いとか思ったことないです！切なさもあり心温まるストーリーを書かれるkさんの言葉の紡ぎ方がとても大好きです！更新楽しみにしてます(^ ^) (2018年3月14日 0時) (レス) id: 74d5d29218 (このIDを非表示/違反報告)
グロリオサ(プロフ) - Kさんが書くお話はどれも切なくてハラハラしながら時間を忘れて読んでしまいます。いつも素敵なお話をありがとうございます。 (2018年3月13日 17時) (レス) id: e0624b2322 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - ケイカさん» コメントありがとうございます！私にはもったいないお言葉…(;_;)もう少しお話は続きますのでこれからもよろしくお願いします！ (2018年3月13日 7時) (レス) id: 16d69035ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K
| 作成日時：2018年1月31日 22時
