-8- ページ9
「う…ん？」
目を覚ますと、見える景色が変わっていた。
いつの間に、身体は完全にソファで横になってしまっていたらしい。
きっと、これはうたた寝というレベルではない、と感じ体を起こした瞬間、何かが肩からずり落ちて床にはらりと落ちていった。
「…？」
それが何か確認しようと、体の向きを変えた時、
飛び込んできた景色に、私は息を飲んだ。
「せん、せ…？」
向かいのソファで腕と足を組み、
すぅ、と透き通った寝息を立てて眠る二宮先生を見つけた。
大きな窓の外は漆黒の闇。
ポツポツ、粒の大きな雨が窓に叩きつけられ、外気との温度差で窓ガラスはすっかり曇っている。
こんな夜遅くまで先生と一緒にこの部屋で過ごしたのは、これが初めてだ。
「あ、れ……」
先生の姿に少し違和感を覚える。
確か、ここに来た時は着ていたはずだ。
濃紺のジャケットを。
･
勘なんか良くなくても気付いてしまう。
その在処。
足下に落ちたその布は確かに、二宮先生のジャケットだ。
…どうして。
…どうして離してくれない。
…どうして。
拾い上げたそれを堪らずに抱きしめる。
先生の匂いがする。
柔らかい柔軟剤みたいな。
きっとこれは、奥さんの趣味なんだね。
二宮先生が選んだ人だもの。
きっと優しくて、可愛くて、素敵な人なんだろうね。
私なんか、目にも入らないくらい。
「………っ、」
ぽたり、ぽたり、ジャケットにシミができる。
涙くらいじゃ私の香りは移らないでしょ。
お願い。もう少し。
もう少しだけ。
「A…？」
ススッ、と衣服とソファが擦れる音がして。
静寂に、二宮先生の声が響いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 660人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
