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自分で決めろや、って言われるような情けない相談ごとだとよく分かっている。
でも、二宮先生はふんふん、と頷きながら、時に真っ直ぐに私を見つめながら。否定することもなく、きちんと最後まで聞いてくれた。
「Aちゃんさ」
「…」
「この研究室じゅうに置いてある本は、確かに立派な研究材料。」
「…はい…？」
「でも、別にそれだけじゃない。君をここに呼び寄せたインスタントコーヒー、それに、甘みを加えてくれたハチミツ。やけどさせそうになったマグ。
それに、それを入れた俺だってそうだ。
研究対象なんて、身の回りに溢れてる。」
「…、」
「なんでもいいんだよ。」
「……なんでも……」
「だって、君の大学生活の集大成だよ。この四年間思い返してみなよ。きっと、何かあるよ。君が書きたいこと。」
…書きたいこと
私が、書きたいこと？
反芻する言葉と共に、
薄く笑みを浮かべた二宮先生の口元が、記憶に刻まれる。
「先生、」
「ん？」
バクバクと、鼓動が耳にうるさい。
「また来てもいいですか…、」
･
「これ貸してあげる」
ハチミツ入りのコーヒーを飲み終えて立ち上がろうとする私に、先生は一冊の本を差し出した。
「え、漫画…？」
「いやいや、漫画だって立派な文献でしょ(笑)」
「ふふ(笑)」
「またいつでもおいで」
受け取る時に一瞬指先が先生の指に触れて、
先生は、目を細めた。
ドアを閉めると、走り出したくなる気持ちを押さえつけるのに精一杯。
ニヤニヤする顔を両手で隠しながら、エレベーターに乗り込んだ。
「二宮先生…」
堪らずに誰もいないエレベーターでその名を口に出すと、謂れのないむず痒い気持ちに襲われて、思わず壁をベシベシと叩いてしまう。
これは私の中にも確実にある、
邪心の芽。
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