【04】 ページ33
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今思えばここで引き返せば良かったのだと思う。
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いつもとは違う格好が私をより開放的にしていた、という言い訳。
アルコールだって回ってた。いつもと違う空間。
少し丸まった猫背な背中の隣に、強張った背中が並ぶ。
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和也「…意外に驚かないんだ？」
「…驚いたら迷惑かかりますよね」
和也「良識あるのね。ポイント加点」
「…まさか大金持ちの二宮、さんがこういう庶民的なバーにいるとは思いませんでしたけど」
和也「俺ねぇ、高い食べモンとか嫌いなの。口に合わなくてさ」
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たまに食べたくなるんだけどね。
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そう笑って左手でグラスを持ち、アルコールを身体に取り込んだ彼を見て
この人は左利きなんだと初めて知った。
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ゴクリ、とアルコールを飲み込む喉仏がやけに色っぽくて見てはいけないものを見てしまった気分になって
耐えられなくなってマスカラを塗った睫毛で、ブルーのカクテルの水面に影を作る。
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それも、間違いだった。
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和也「女も一緒」
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ありえない言葉に木目のテーブルだけが広がっていた瞳を上に上げる。
これが間違いだったんだ。そもそも俯いていたのが間違い。
横を向いていると思い込んでいた私は無防備に顔を上げた。
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ーーーー…多分、この時。
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和也「高いモンはあんまり好きじゃないの。でも安すぎるのもめんどくさい。だって安いのって害及ぼすじゃない？」
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彼の計算尽くされた、張り巡らされた蜘蛛の巣のような
気持ちが悪い糸に、罠に引っかかったのはこの時。
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こちらを向いていないと思っていたのは所詮、私の思い込み。
彼は頬杖をついて私の方を向いていた。
そして平気で酷いセリフを可愛らしい口元からポンポンと息をするように吐き出す。
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和也「高いのはね、頭が良すぎてたまぁに嫌になる。安すぎるのはバカだがら嫌い」
「…」
和也「高すぎず、安すぎず。頭がいいバカが一番美味しいよね」
「…」
和也「…あなたは何味？」
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クッと上がった口角。
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拓真の笑った顔が脳裏を過ぎったけど
それはほんの一瞬に過ぎなかった。
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