BLACK JACK【0617*K.N】 (ページ19)

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部屋に戻った私はボイスレコーダーの声を何度も再生しては文字に変える作業に没頭した。

窓からワンルームの部屋に朝日が射し込み始めた頃に一旦中断し、朝ご飯代わりに甘いカフェオレを二人分作り、一つを写真の前に置いた。

フレームの中の母親は軽い化粧に肩までの髪を緩く結んでいる。病床で｢いつかカフェを開きたい｣と言っていた夢は結局叶わなかった。

母が残してくれた貯蓄は私１人が生きていくには充分だったが、それでもそこにはなるべくなら手をつけたくなくて、居酒屋のバイトでどうにか食い繋いでる。

母が亡くなってから私はある人物を探し始めた。きっかけは、遺品の整理をしていて見つけた手帳だった。

意識が朦朧とする中での何かの戯言だと気にもしなかった母が言った｢会いたい｣というのは手帳に記されたの『N』という人物なのだと直感した。

顔も名前も知らない父親なのだろうか。それとも純粋に仲の良かった友人のイニシャルなのだろうか。

手がかりになるものは、薄らと残る母親の仕事の記憶と、手帳に挟んであった文字の掠れたファミレスのレシート。

母親が最期まで会いたいと思っていた人物はどんな人なのだろう？

そのことを知りたい一心で、なんとか読み取ったファミレスの住所付近の店舗を“取材”と偽って訪れて、15年前のことを聞いて回っているんだ。

そしてようやくそれらしき『N』のイニシャルと符合する人物に辿り着いた。

二宮和也。

彼が探していた人なのだろうか。

知りたい。

もっと二宮を知りたい。

飲み干したカップを洗い、ふと部屋の時計を見ると１限に間に合うには出かける支度を始める時刻になっていた。

慌てて着替えを済ませ、リュックを背負ってロードバイクに跨り、専門学校へと向かった。