然りとて愛は見つからず ページ3
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最初に与えられたのは服だ。サテンのピンタックブラウスと良質なテーラードスーツは光を通さぬ濃い黒色で、返り血を浴びても目立たないという。
「テメェの主な仕事は家事と護衛だ」
「……護衛なんて必要? 十分強いじゃない」
「雑魚を一々相手取るのが面倒でな」
「ああ……」
元七武海とはいえ、懸賞金稼ぎやら海軍やらに狙われるのは常だろう。確かに全員倒していては時間の無駄だ。納得の行く話である。
「それにしてもぴったりね」
「オーダーメイドだ。手入れは怠るなよ」
「──え。いつ測ったの」
「見りゃある程度分かる」
……そういうものなのだろうか。
靴はエナメル生地のストラップシューズ。その他にも寒地用コートや手袋などが渡された。どれもかなりいいお値段に見えたけれど、彼が私に代金を請求したことは一度も無い。先行投資だと言っていたが、些か散財が過ぎているような。
ネクタイは似合わない骨格だそうで、代わりにループタイを付けることとなった。楕円のエメラルドは真っ黒なコーディネートのいい差し色になり、アクセサリー感もあって可愛らしい。
そんな心境が顔に出ていたのか、「女らしい顔もするんだな」と笑われた。
「装飾品は好きよ。指輪とか、ネックレスとか」
「邪魔にならねエのか」
「あなた、戦う時にわざわざ指輪外したりする?」
「いいや」
「そういうことよ」
その程度の差で腕が鈍るなど、素人もいい所である。
「──悪いわね、道具まで揃えて貰っちゃって」
一頻り手首を回して慣らしたナイフをホルダーに収め、その重量に息を吐く。久しい重みに懐かしさを感じていれば、彼は何本目かの葉巻を取り言った。
「銃器は使わないんだな」
「あまり。不得意ではないから、必要なら言って頂戴」
「そっちも買うか」
「いえ、……そうね。取りに戻りたいから船を回して欲しいわ」
「場所は」
「マリアのところ」
顰められた顔に微笑を返す。理由を問う彼に私は言った。「立つ鳥跡を濁さず、よ」。
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作者名:白鯨 | 作成日時:2023年2月10日 23時