朝を憂う【ONEPIECE】 (ページ19)

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ゞページ19

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「商売に無関係の完全な私情で殺し屋を差し向けるだなんて、凄い人もいたものね」
「クハハ……その結果がこのザマだ。救いようがねェな」

　干からびた女を放り捨て新しい葉巻を取出すサーに近付き、常備しているマッチで先端に火を付ける。彼は上機嫌に煙を吸い──僅かに眉を上げる。鋭い目線が私を捉え、言葉を促した。

「この街でしか買えない特別製のマッチだそうよ。愛煙家に人気と聞いたのだけど、お気に召さなかった？」
「……買えるだけ買い溜めておけ」
「ふふ」

　以前、手持ちのマッチを切らしていたためライターを差し出したら酷く顔を顰められたのだ。聞けば使うものにより煙の風味を損なってしまうのだとか。

「雇われはどうした」
「……、殺したわ。交渉出来なかったから」
「そうか」

脳裏に彼の姿がちらついた。肉に突き刺した簪の感触と、滴り落ちる血の温かさ。

「……」

　吁。
　心の削げ落ちる音がする。

*

「様子が可笑しい？」
「ええ。些細な変化だが……」

　煮え切らないダズの言葉に、クロコダイルは眉を寄せる。珍しく穏やかな新世界の海を行く船、その執務室。件の襲撃から一週間が経過した、午後の日の事である。

「具体的には」
「口数が少ない。笑う頻度も減っているし、ボーッとしている時間が増えています」
「気にする程か？女ってのァ小せえ事で悩む生き物だぞ」
「……以前の顔付きに戻ったように思える。ボスへ襲い掛かり、捕まったあの日」

　これはダズの預かり知らぬ事だったが。クロコダイルはそう言われて初めて、最近の彼女の変化に気が付いた。出会った日や古巣へ向かった日に比べ、遥かに感情豊かになっていると。

　彼女は特殊な生立ち故に偏った世間知らずであったので、まずは教育だと知識を与えることから始めてやった。地頭のよさと生真面目な性質から何でも程良く吸収し、疑問を持てば調べ聴く。そのお陰で教育と言ってもほとんど手は掛からなかったが。

　第一印象は「暗い女」だった。出会った頃の生気のない、諦観に満ちた目を思い出す。

「……確かだな？」
「はい」
「呼べ。お前は来なくていい。暫くクルーも近付けさせるな」

　頷いて退室した部下を見送り、クロコダイルは冷め切ったコーヒーを口に含む。その上品な香りに豆を買ってきた彼女の顔を思い返し、深く息を吐く。

『──あなたは、何をくれるの？』

「くだらねェ」

　勝手に病み、勝手に死なれては困るのだ。