朝を憂う【ONEPIECE】 (ページ16)

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「銃にマークがあったわ。名の知れた暗殺者集団ね」
「傷は」
「問題無し。強いて言うなら血液凝固防止剤のおかげで貧血気味ってとこ。動くのに支障は無いわ」
「潜伏先の目星は付いているんだな」
「ええ」

　深く吐き出された紫煙には苛立ちが混じっている。どうやら雇主に幾つか心当たりがあるようで、先程も商売取引に関わる書類を幾つか砂に散らせていた。逆恨みか裏切りか、何れにしろこの男に喧嘩を売るなど、死に急ぐにも程があるだろうに。

　船に戻り傷を診てもらったところ、やはり麻痺毒も含まれていた他、弾丸そのものは海楼石で出来ていた。私は能力者ではないし毒にも耐性があるので問題無かったが、毒も防止剤もサーのような大男でさえ鈍らせる強さの物だったそうだ。

「久々にマリアに感謝したわ」

　ようやく護衛らしい仕事が出来た気がする。そう呟くと彼は声を出して笑い、後始末まで終わらせてから言えと目を細めた。

「行けるか」
「勿論」

*

　夜。地下街の端にある飲み屋──その二階。入口から死角になる隅の席で、男は黙々と酒を呷(あお)っていた。稀に好奇心に駆られた酔っぱらいが近付いては、傍らへ置かれたライフルを見て退散していく。一階と周囲の喧騒に目もくれずひたすら飲み続ける男。その対面の椅子を引き、「ハイ」と軽く声を掛けた。

「いい夜ね。一緒に飲むお友達はいないの」
「……騒々しいのは好まない」
「相変わらず寂しい人ねぇ」
「世間話をしに来たのなら帰れ。ここは俺達の縄張りだ、六番目」
「──それ(・・)はもう捨てたの。二度と呼ばないで頂ける？ミスター」

　ハイライトの欠けたアメジストが私を映す。昔は右目に眼帯をしていたが、今は両方ともしっかりと瞼を開けていた。よく見るとその右の眼球に艶はない。なるほど精巧な義眼である。

「それから勿論用件はあるわ。貴方、最近一つ仕事を受けたでしょう。女商人からの依頼よ。ミス・ラベンダーという名で、表向きは貴族だそうね」
「それが何だ。依頼内容について語れと言うなら無理な話だ……なんて、言わずとも分かるよな」
「ええ、大事なのはそこじゃない。失敗したでしょ？その仕事」
「…………」
「隠さなくていいわ。防いだのは私だもの」
「……成程。名を捨てたとはそういう意味か、クソッタレ」
「お口の悪いこと。もうお分かりでしょ──貴方の部下が銃を向けたのは私のご主人様なのよ、ミスター」