6話 ページ6
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乗せられた手が、そっと、慈しむように動く。
私は俯いたまま、頭上の手の存在に抵抗もせず、かと言って受け入れもしないつもりで、ただ黙った。
「辛いだろう。苦しいだろう。君がどれだけの思いでこれまで鬼殺をしてきたのか、俺は、」
最後まで、言葉は続かなかった。
私が手を振り払ったからだ。煉獄さんは、振り払われて行く先を失った手を、ゆっくりと下げて私を見た。
「柱と共闘することができて光栄でした。良い経験としてこれからも鍛錬に励み、努力を重ねます。あなたとは、たまたま同じ任務に当たっただけの関係です。これ以上の深入りは不要。もう寝ましょう」
「……ああ。会って間もなく、踏み入ったことを話してしまって、すまない」
後ろを振り返らずに、部屋を出た。案内された自室で、ふううう、と深く息を吐く。もうあの人と共同任務になることはないだろう。相性が悪い。
頭にあった温度を忘れるように、深く眠った。
「おはよう!よく眠れたか!!」
「…はい、まあ」
「そうか!睡眠は大切だ!夜は長いからな!」
ははは!!と明日の方向を見ている煉獄さん。
この人、昨夜のことを忘れたのか。
明らかに気まずい雰囲気だっただろうに、変わらず快活に話しかけてきた。引きながら、少し距離を置いて歩いていると、分かれ道に至り、ここでお別れだということになる。
「では、これにて」
一礼し足を踏み出すと、A、と名前を呼ばれた。
振り返ると、先程の騒がしい表情はなく、静かに笑みをたたえた彼が、優風に吹かれていた。
「君の苦しみに共感はできずとも、思いを馳せることはできる。それだけ人の記憶があるということは、それだけ人の死を記憶していることでもある。想像を超えた悲しみだ。普通なら耐えられない」
「…もう、いいですから、」
「いや、最後まで聞いてくれ」
一歩、二歩、とこちらに歩み寄られる。じりじりと下がるが、手を引かれて、優しく握られる。
「だが、そこにあるのは悲しみだけではない!
君が覚えていてくれるだけで、彼らは生き続ける。君の心の中にいる。素晴らしいことだ!」
力強い声だ。
心に巣食っていた黒い
「もっともっと、君は強くならなくてはな!」
共に頑張ろう!!と手を振って、彼は去っていった。
その後ろ姿を、私は立ち尽くして見ていた。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時