44話 彼女という人 ページ44
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煉獄杏寿郎は柱合会議の後、その頭を珍しく苦労して整理しながら、屋敷への帰途についていた。
人間を喰らわないという鬼の姿を初めてその目にした動揺は、思ったよりも大きかった。
認めてよいものか、否か。いや、駄目なのだろう、本来は。お館様がなんと言おうとも、鬼は鬼。誰かが死んでからでは、もう時すでに遅しなのだ。
しかし、彼女は、その鬼のおなごは、稀血である不死川の誘惑にも負けず、攻撃はおろか、喰おうとする仕草一つしなかった。瞬きもせず見ていたが、その驚きは内心隠すのに苦労した。
一度それについて考えるのはやめにして、ぽいっと彼は思考を投げた。
Aは無事だろうか。那田蜘蛛山での任務は完了し、鬼も無事討伐されたと聞いている。被害はあったが、死者名簿に彼女はいなかった。
しかし明記されている人間の数の多さに、煉獄は顔を顰めた。おそらくこの中に、彼女の友人や顔見知りもいるのだろう。
この心理的傷に彼女は耐えうるだろうか。
煉獄はひとまずAを探すことに決めた。
純粋に彼女の無事を確かめたかったからでもあり、その心に再び深い穴があいてしまったのなら、自分が寄り添いたかったからである。そこに寄り添うのは自分だけであってほしかった。
「……ざき、ちゃん。昌、…弘、涼子、」
進んだ先にある道から、か細い声が聞こえた。耳がおかしくなければ彼女の声だ。煉獄は足を早めた。
道端にAはうずくまって座っていた。体を自分で包んで、なんとか自身を保っているかのように、今にも消えてしまいそうな姿でしゃがんでいた。
「…A」
声をかけると、彼女は少し顔を上げた。虚ろな目をしていた。それを見て煉獄は指先から後悔の念で震えた。胸が強く締め付けられた。
ああ、君は強いから、待っている、なんて。そんなことをどうして言ってしまったのか。こんなに崩れそうな彼女を。
すぐに腕をとって優しく抱きしめた。それぐらいしか、俺には彼女にしてやれることがない。筋肉が、年頃の女性にしてはついているが、それでも華奢な彼女の体を包んで、煉獄はその軽さに余計に瞳を強く閉じた。
「あ、…杏寿、郎、?」
「そうだ、俺だ。A、もういい。もう休もう」
ぴくりと動いた彼女を抱えて、おぶって歩き出した。とりあえず自分の屋敷に連れていこう。
おぶられたまま、ぽつり、ぽつりと仲間の名前を呼び続ける。
君は俺の初めての任務のときも、そうしていたなぁ。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時