38話 那田蜘蛛山 ページ38
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多くの叫び声が聞こえる。
あちこちから漂う、血の匂い。そしてそれ以上の強い悪臭。鼻が歪みそうなほどの異臭だ、それ以外の感覚も麻痺しそうなくらいの。
何人残っているんだ。
山が広くて状況把握が追いついていない。
「癸…、癸だって!?なんで柱じゃないんだ、癸なんてそんなの、何人いても一緒だ!意味が無い!」
聞こえた。生存者の声だ。
可能な限りの速度でそちらに向かう。
ああ、どうか間に合ってくれ。
* * *
那田蜘蛛山に到着したのは、既に日が沈んでからだった。それというのも、道端に倒れていたご老人を、一つ先の山間まで送り届けた故のことだ。
近づくごとに感じる禍々しい雰囲気に、鬼の気配。
数匹いる。
身構える体に重くのしかかる、山から発せられる空気。
鬼は群れない習性だと記憶しているが、どうやら今回は例外らしい。
躊躇せず、山奥に足を進める。草をかき分け、木の間に目を凝らし、なにも捉え損ねないように奥に入っていく。
とっくに他の隊士たちは入っているはずだ。日が沈む前に、鬼が活動を始める前に偵察をするはずだから。
不思議なことに、これまで一人の隊士とも出くわしていない。
嫌な予感が走って、これ以上に走る速度を上げた。
かさかさと、なにか小さな物が地を這う音がして、そこに目を向けると、指ほどの大きさの蜘蛛が数匹、私の体に登ろうとしていた。咄嗟に手で振り払い、ぽとりと落ちたところを刀で刺す。
ぐしゃ。嫌な音がした。
蜘蛛の尻からは細く糸が出ていて、これで体を拘束しようとしたのか、とそれを掴み、ぐいと腕で引っ張る。糸は切れず、引っ張れたのも途中までで、ある一点から抵抗が生じた。
どこからか、この糸を引いている者がいる。
糸の伸びる方向に目を向けた。目を細めて注視するが、どうやら近くにはいない。広範囲の糸だ。
他の隊士がこれに捕まっているとしたら、危ない。糸を操る鬼以外にも数匹いるはずだ。
感覚を研ぎ澄ませた瞬間、聞こえる絶叫。異臭。
きりきりと糸を引く音。
記憶を辿れ。
こうやって一箇所に鬼が複数で長期間潜んでいる場合、入ってきた人間をまず第一段階で殺す鬼が一体いる。そこで数を減らすためだ。
だからこその、広範囲の糸。そのものに殺傷能力はないが、操れるとしたら、一気に危険度は上がる。
目的はなんだ。一つ、思い当たることがあった。ひゅ、と息を呑んだ。
隊士同士で、殺し合いをさせるためだ。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時