36話 彼の色 ページ36
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少し世間話をして、病室を出ていこうと椅子から立った。その時、ちょうど髪の一束が隊服の釦に絡まり、引っ張られてくぐもった声が出た。
「う、また絡まった」
「Aの髪は腰まであって長いからな。不便なこともあるだろう」
「好きで伸ばしてるからいいの。でも、やっぱり絡まるのは困りものだなあ」
「…実は、先日街に行ったとき、これを買ったんだ」
そう言って差し出されたのは、赤色の組紐。
赤、といっても、紅葉色に近い。晩秋に色づく、楓のような鮮やかな赤色だ。
とても綺麗だった。手に取ると、動かす度に艶やかな糸が光にあたって、色を僅かに変える。
思わず見入った。私がそうしているのを見て、杏寿郎は嬉しそうにしていた。
「これ、高かったんじゃ」
「いや、値段は気にしないでくれ。どっちみち、金の使い道には困っていたんだ」
「あ、りがとう」
「うむ」
こっちにおいで。結んであげよう。
そう言って組紐を取り、手招きする。私は杏寿郎の前で背中を向けて座った。耳元から、彼の手が私の髪を掬う。触れた手が、少しくすぐったかった。優しく手ぐしで髪をまとめられる。
「君の髪は綺麗だな」
「ふふ、お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞などではない。本当に、綺麗だ」
低い声が、そっと囁く。さらりと、一つ結びに結われた髪が肩に垂れる。頭上部で結ばれたそれの結び目には、目を引く紅葉色の組紐が揺れていた。
「普段から自分も結っているだけあって、上手だね」
「はは、お世辞でも嬉しいぞ」
「私の言葉をとらないでよ、お世辞じゃない」
「言っただろう。俺もお世辞などではない」
むっとして振り返ると、遊び心に溢れた瞳が、こちらを愛おしそうに見つめている。それに少し勢いが揺らいで、目を見張った。
「うむ、良く似合っている」
「そっ、か。この色、杏寿郎みたいだね」
「そうだな。少しずるい方法だが、そうと分かってこの色を選んだんだ」
ーーー君の髪に俺の色が纏われるのを、見たかった。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時