後追いしてやる【煉獄杏寿郎】

35話 ページ35

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日差しの心地よい昼。
蝶屋敷にて、御縁(いえにし)Aの怒鳴り声が響いた。



「うっわ！杏寿郎また怪我してる！！」

「なんてことはない！軽傷だ！」

「腕！！ざっくり！いってるじゃん！」

「君は心配性だな！！」

「お二人とも、もう少し黙っていただけます？」



私と杏寿郎の頭に、ごつんとゲンコツが下ろされる。怒っているしのぶも、ちゃんと感情が出ていて私は嬉しい。ふふ、としのぶに笑みを向けて、杏寿郎の方に向き直る。

どうやら隊服の袖をまくっていたらしく、もろに攻撃を受けてしまったとのこと。馬鹿か。



「そのままの調子でころっと死んだりでもしたら、ほんとに私、後追いするから！」

「はは！それは困ったな！」

「ずいぶん恐ろしい冗談の掛け合いをするんですね」



ぞぞ、と顔を青ざめさせて引いているしのぶ。だが、これはお互いさまの約束に近いものだ。

死んだら自分も死ぬ。つまるところ、死ぬなよ、と。そういう約束なのだ。



「傷自体は深いですが、すぐに治りますよ。ただ、激しい素振りなどは3日程、抑えてください」

「承知した！」



では失礼します、としのぶは次の怪我人の元に行った。その後ろ姿を見て、感慨深い気持ちになる。

座っていた杏寿郎がくるりと体の向きを変えてこちらを見た。包帯を巻かれた腕を私が睨むと、彼は、まあまぁ、と苦笑いして言葉を続ける。



「君も近々任務があるのだろう？」

「ああ、そうなの。数体の鬼の出没が疑われてるらしくて。他にも隊が出陣するかもしれない」

「それはまた大掛かりだな。どこだ？」



ーーー「那田蜘蛛山」



鴉に告げられた通りの名前を伝えると、少し静まり返る病室。
杏寿郎もじっと前を見つめ、言葉を発さない。



「なにか言ってよ怖いんだけど」

「はは！いや、おどろおどろしい名だと思ってな！」

「うーん。記憶してる限りでは、そこでは大きな被害は出てなかったはず。数年前に隊士が数人、鬼を追いかけて何者かに惨殺された。体はバラバラにされていて、見る影もなかったらしい。生存者はいない」

「…十二鬼月か」

「可能性はある」



彼は、こちらをじっと力のこもった眼差しで見つめる。それにどういう意味があるのか、さすがの私でもよくわかった。



「私は死なないよ」

「…ああ。そうしてくれないと困る」

「せめて、天から頂いたこの記憶力をね、存分に使うまでは死ねないなあ」

「その力で、今回も勝ってくれ」

「ん、頑張る」



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