後追いしてやる【煉獄杏寿郎】

33話 ページ33

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「あ、の。その…手、」

「む。だめか？」



だめではないけれど、そうやってあなたの頬に置かれているのは、少々恥ずかしい。ぽつりとそう言って俯くと、彼は嬉しそうに目を細めた。

ゆっくりと頬から手は下ろされ、彼の指と私のが絡まった。彼の指は、沢山鍛えてきただろうに、存外綺麗で、滑らかで、温かかった。



「これからも、杏寿郎と呼んでくれると約束するまで、離さないぞ」

「約束する。約束するから、」

「ふ、……うむ。やはり離すのはやめた」

「へ、」



離されるどころか、むしろぎゅっと握られた手を、彼はそっと引き寄せた。必然的に近づいた体。凧を持っている方の手が、驚きと胸の高鳴りで、震える。



「杏寿郎っ」

「んー？」

「んー？って、そんなこと言う人じゃないでしょ」

「はは、嬉しくて少し舞い上がってしまった」




柔らかい笑顔。以前はあまり見なかった表情。
こんな表情も、するんだなあ。



「君が勝ったら、という話をしていたが、そちらも二人で叶えよう」

「いいの？私負けたのに」

「大切な用なのだろう。俺にも行かせてくれ」

「わ、ありがとう」



神社の一番の大樹の根のところに、手紙を埋める。

これは私がずっと、したいと、やり遂げたいと思っていたことだった。できれば、誰かが見ている元で。

だから今回彼が一緒に来てくれるとなれば、やはり心強い。

歩いて元来た道を辿りながら、他愛ない話をする。彼は、杏寿郎は、私の手を離すことはなかった。



「A、まさか、埋めるというのは遺書ではあるまいな」

「少し違うかな。遺書はもうお館様の所にあるし」

「では手紙というのは、誰に宛てたものなんだ？」

「ふふ、秘密だよ」

「む、そうか、秘密なのか」



それ以上、杏寿郎は深くは聞いてこなかった。私もこれ以上のことは何も言わずに、凧を褒めて話を変えた。絶賛すると、彼は照れくさそうに笑った。



「本当に綺麗。職人が作ったみたい」

「そう褒めるな。粗も目立つ代物だ」

「いやいや！私、これが今までで一番好きだなぁ」



片手で凧を空に掲げる。太陽の光が透けて、風車が光っているようだ。



「大事にするね」

「うむ！それは俺からの贈り物だ」



そう言って、にかっ、と口元を綻ばせた。ただの友人なのに手を繋ぐだなんて、なんだかおかしいなぁ、と思いつつも、大きくて温かいその心地良さに、私は抵抗することなく甘えた。



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