23話 ページ23
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鬼のいない世界なら。こんな会話、しないで済んだのだろうか。もっと普通に仲良くなれたのだろうか。
考えてもどうにもならないことだ。鬼のいるこの世界で、叶うはずもない未来を考えるな。
今目の前に、そこにいるのだから、いいじゃないか。
自嘲ぎみに笑って、そろそろ帰るね、と一言言った。
「あと数日はここにいる。また来てくれないか?」
「うーん、どうしようかな」
「そう言わずに!俺は待っているぞ!」
君は来るに決まっている、と自信たっぷりに、煉獄さんは腕を組んだ。どこからその自信が湧いてくるんだと突っ込むと、Aだからだ!!と断言した。
どうだろうね、と意地悪に言いつつも、心の中では、すでに訪問を予定の中に組み込んでいた。
「…煉獄さん」
「む?」
「本当に、置いていったら許さないから」
「うむ!!俺も君に先立たれたら承知しないぞ!」
二人で、ぱん、と手を叩く。
病室を出て、玄関に向かった。廊下の途中で、Aさん、と、声をかけられる。振り返ると、薬箱のようなものを持った胡蝶様が、にこりと笑った。
「胡蝶様、どういたしましたか」
「いえ、そこにいたものですから。うーん。Aさんにそう呼ばれるのは、なんだか慣れませんね。以前のように、しのぶ、と呼んでいただいて構いません」
「…もうあなたは、私のような一介の隊士とは違うのだから。馴れ馴れしく呼ぶのは憚られます」
「そう、ですか。少し寂しいですね」
眉を下げた彼女は、そう言って、本当に寂しそうに笑った。カナエが亡くなって、もう4年になる。もう彼女も、姉の歳を追い越してしまった。
実弥とカナエは、柱の中でも割と仲の良い方だった。
カナエはもちろん誰とでも友好的に接したが、いつも刺々しいあの実弥が、彼女に手当される時は、敵わなそうに顔を背けたものだった。
私はカナエがとても好きだった。今は胡蝶様と呼んでいるが、しのぶともよく屋敷で話したり、遊んだりした。ふざけて、姉さんと呼んでもらったこともある。
しのぶも実弥も、心から笑う姿を、あまり見なくなった。
「胡蝶様、大丈夫ですか?」
「え?」
「私の記憶では、あなたは仇を討つために、ご自分の身体を、毒そのものに変えようとしているはずです。藤の花の毒。一年以上は前から」
「…、問題ありません。薬学や毒には、精通していますから」
「身体の話ではない。“ しのぶ ”、心の話だよ」
彼女が、ひゅ、と息を呑んだ。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時