18話 煉獄ノ回想 ページ18
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「ーーーーっ!」
近すぎる。
完全には、下がれない。
動揺で刀の振りがぶれた。全力で後ろに飛びずさる。切っ先が彼女の顎を掠めた。
刀が触れたAの顎から、血が流れている。
嫌な汗が垂れた。甘い異臭で頭が働かない。
体勢を立て直し、Aの体をしているソレをもう一度よく注視した。
隊服も、髪も、顔も、匂いも、気配まで。完全に彼女だ。疑う隙もない。なぜここにいる。血鬼術か。
鬼はどこへ行ったのだ。消えた?そんなはずはない。
先刻まで確かにいた。俺は確かにあれの頸を捉えたのだから。
すると、彼女の顎の傷が塞がった。ぎゅるりと音を立てて、出血も止まる。
ああ。
「フフ、その顔、動揺してるわねェ。そうよねェ、だって今、あなたには私のこと、一番頭に思い浮かべている人間が映っているのだもノ」
「…関係ない。お前が誰に化けようと、俺はその愚技に騙されたりはしない。この匂いで判断力を鈍らせたとしても、俺はお前を斬る」
「アラ、そうなノ。斬っちゃうノ、ウフ、フフ。いいわヨ、ほら、斬ってみなさいヨ、
今お前に見えている人間ごとネ」
鬼は、にたにたと気味の悪い笑みを浮かべている。
目の前が、暗くなる。
今、こいつはなんと言った。
Aの姿をした鬼は、頸を差し出すように、両腕を広げた。Aごと?そんな馬鹿な話があるか。
そんな、肉体が繋がっているわけでもなければ。
は、と先程の鬼の言葉がよぎる。
『もうお前に私は殺せないワ!!』
あの鬼はそう言った。
そうか、合点がいく。
自分を殺そうとした人間に、そいつが一番思い浮かべる人物の姿の幻覚を見せる。異臭はそのためだ。だが、それだけなら問題はない。
こいつは、こいつの術は。
見えている人間と自分の、生死を繋ぐ血鬼術か。
腸が煮えくり返るような気分だ。
びき、と腕の血管が浮かび上がる。日輪刀を持つ手が、ぎし、と音を立てた。怒りで目が眩む。
悪鬼。ああ、腹が立つ。
「フフ!!斬れる?あなた、斬れるのォ?今までの鬼狩りも、みーんな同じ顔をした。そう、その顔。あなたの一番大切なヒト、私と一緒に殺せる?」
「……」
「手も足も出なくて辛いわよねェ!?フフ!ハハ!」
うるさい。騒々しい。
ふざけるな。
彼女の命を冒涜するな。Aの命を。
お前ごときが、手玉に取っていいものではない!!
「炎の呼吸、参ノ型!!
ーーー気炎万象!!!」
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時