16話 ページ16
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アオイちゃんの制止も聞かず、更につねる力を込める。にぎぎ、と音がする程つねった。力が入って、指先が白くなっていた。
煉獄さんは当惑している。
なぜなのかわかっていない顔だ。
「どうひたんだ、A、はへふねる(どうしたんだ、A、なぜつねる)」
「Aさん、さすがに力が強すぎです!ああもう!しのぶさん呼んできます!」
アオイちゃんは走って出て行ってしまった。
きっ、と顔を上げた。
きっとくしゃくしゃの表情をしているんだろう。不細工かもしれない。それでも口を開く。
「信じられない!!!そんなに酷い怪我で!!平気そうな顔して!!こっちの気持ちも知らずに…っ!!
すぐに帰ってくるって言っておいて、二週間も音沙汰ないし!!あなたが帰ってこなかったらと…本当に、心配して…っ…」
ずるずると、体が崩れ落ちた。実弥の言葉を聞いてはいたが、やはり本人を見て、生きていることを再確認し、安堵したからかもしれない。
彼の重傷を見たとき、体の血が凍った。
こんなに焦ったのはいつぶりだろうか。
まだそこまで近しい関係になるほど、時間は経っていない。それなのに不思議と、煉獄さんの姿は私の頭に強く残っている。
彼の言葉に、少なからず救われたという理由もあるだろう。ああ、本当に。私は。
「不安な思いをさせて、不甲斐ない」
申し訳なさそうに笑う煉獄さんと、目が合う。お願いだから、自分のことは責めないで欲しい。そんなことを言っているのではないのだ。
私は拗ねた声音で、ふんと息を吐いた。
「こうなった経緯を話してもらうまで、納得しないから」
「よもや!!A、敬語を外してくれたのだな!」
しまった、感情が高ぶって完全に敬語を忘れていた。
あ、と言葉に詰まると、煉獄さんは私が答えるよりも前に、「もう時効だ!これ以後はそのままでいるように!」と負かされてしまった。
満足そうに、とびきりの笑顔を見せた煉獄さんは、すっと表情を戻し、虚空を見るような目をした。
「今回、倒した鬼のことだが」
掛かっている毛布を握りしめている。眉間に皺まで寄せて、もはや怒りすら感じられた。
少し空気が重くなる。私は彼の言葉を待った。
「実に腹立たしいやつだった」
煉獄さんは忌々しそうに、今回の任務について話し始めた。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時