15話 ページ15
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血鬼術を喰らってしまったという話。
柱でもあり、そうとう手練のはずの彼が、十二鬼月でもない鬼から、そんなものを喰らうだろうか。
一般市民を庇ったにしても、煉獄さんなら、何事もなくこなせるだろうに。
悶々としながら、蝶屋敷の門を入る。
ここの邸主である蟲柱、胡蝶様は、不必要な訪問者は門前払いしている。
だが、前回私が腕の傷でお世話になった時も、煉獄さんが訪ねてきたのを許可したわけだから、おそらく大丈夫だろう。
玄関にて、お邪魔致します、と断りを入れて、療養室へと向かった。
「わっしょい!わっしょい!!」
「ちょ、もう少しお静かにお願いします…!」
「わっしょい!」
「聞いてます!?」
紛うことなき、煉獄さんの声だ。部屋の中から、この廊下の奥まで聞こえてきている。どれだけ声大きいんだ。歩く騒音製造機だな。
すたすたと扉の前に立ち、ノブに手をかける。
そっと開けると、中にはさつまいもを食している煉獄さんと、頭の上の方で二つ結びをしている可愛らしいアオイちゃんがいた。
「A!よもや、来てくれたのか!」
私が来たのに気がつくと、煉獄さんは顔を輝かせた。
持っていたさつまいもをその子に渡して、寝台から起き上がり、松葉杖をついてこちらに来ようとするものだから、アオイちゃんは必死で止める。
「まだお体は全快じゃないんです!起きないでください!」
「いや!俺はもういつでも出陣できるぞ!」
「しのぶ様に言いつけますよ!!」
「むう!!」
私はその一部始終を、呆然としながら見ていた。
じわりと汗を手に感じた。
甦る、かつての仲間の姿。
煉獄さんの怪我の状態が、想像より遥かに酷かった。
そう、有り得ないほどに。
腕にはギプスをはめ、足は松葉杖をついている。頭には包帯が巻かれていて、とてもただの雑魚鬼との戦闘の結果ではなかった。あまりにも痛々しかった。
はくはくと浅い呼吸を繰り返した。
なんとか、煉獄さん、と掠れた声で呼びかける。
「どうしたA、そんな切羽詰まった顔をして。見た目ほど怪我は酷くないぞ、心配はいらない」
「いや、酷いですから!勝手に軽減させないでください!ほんっとに、さつまいも抜きですよ!?」
顔を真っ赤にして、アオイちゃんが怒っている。
平気そうに笑う煉獄さんをよそに、私は転げるように寝台へ駆け寄った。きょとんとしているその顔に、両手を伸ばす。
そして。
全力で彼の頬を、
つねった。
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かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時