12話 ページ12
.
しばらくそのまま、私は何も言えなかった。
煉獄さんは、私を抱きしめたまま、震える私の肩を、あやすように、とん、とん、と優しく、ゆっくり叩いた。落ち着いてきたか、と言われ、こくりと頷く。
「泣きたいなら、泣いていい。泣きたくないなら、泣かなくていいんだ。A、自分の心に嘘をつくな。そうしてまで、弔いのために、自らを傷つけるな。それは彼らの望みではないぞ」
“心に嘘をつくな”
そうだ、ずっと嘘をつき続けてきた。辛くないなんて、悲しくないなんて、全部嘘だ。
本当はずっと泣きたかったし、死を悲しんで立ち止まりたかった。でも、鬼殺隊はそんなことではやっていけない。蹲っていては、人を救えない。
「私、今回の任務の相手が柱だと聞いて、心から安心したんです。柱は強いから、簡単には死なない。そうしたら、私は誰かの死を、覚えなくていいから」
「うむ。そうだったのだな」
「しかも煉獄さん、なんかめちゃくちゃ元気あるし、熱血漢だし、強いし。でも、優しいし、…すみません、酷い態度とったりもしましたよね」
「はは!気にするな!」
「…友人、いいですよ。なっても」
やっとのことで、絞り出せた言葉。
煉獄さんはしっかり聞き逃さず、一気に表情を明るくさせて、私を抱き上げた。そう、高い高いのあれ。
瞳を喜びでいっぱいにして、こちらを見つめている。
「本当か!!それは嬉しいな!ありがとう!」
「名前呼びと敬語外すのは無理です」
「むう!!もうそんなこといいだろう!」
「もう少し仲良くなってからですね」
「なるほど!!承知した!」
「あと下ろしてください」
煉獄さんが、一緒の任務があるからと言って来たのは嘘だということが判明した。
そろそろ行きましょうと言っても、黙ったままだったからだ。問い詰めると、私に会いたかったから、だと。
随分と可愛らしい理由ではないか。
ふふ、と笑うと、子供扱いはやめてくれ!と言われた。
私のほうが年上なんですよ、とからかうと、たった一歳差だと言ったのは君だろう!と言い返される。なんだか、当初とは印象が変わった。
「では、今日は単独任務ですか?」
「ああ。都市の郊外で被害が出たらしい。早めにキリをつけなくてはいけないな」
「…そうですか」
煉獄さんは私の不安を察知したのか、微笑んで腕を組んだ。
「A、」
屈んで、目線を合わせられる。
燃える瞳が、その炎を優しく鎮めていた。
712人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かんみ(プロフ) - だいふくさん» だいふくさん!!毎作愛情が湧き上がってるんですけどこの作品は思い入れが特にあるので是非堪能してやってください(泣)いえ、私なんぞまだまだです、精進します...!!ありがとうございます! (2021年1月12日 19時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
だいふく - 続編楽しみにしています!!本当に、夢主と煉獄さんの関係がなんともいえず儚く美しくて、話も切なくて既に泣きそうです。かんみさんの語彙力と文才が素晴らしすぎて毎回感動しています。何度でもいうけど大好きですー!! (2021年1月12日 13時) (レス) id: 914794939f (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ヒカルさん!コメント嬉しいです!またお会いできて舞い上がってます〜!構成の都合上、煉獄さんと仲良くなるのがゆっくりですが段々糖度あがっていく予定です(ふふ)。 (2021年1月10日 17時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
ヒカル(プロフ) - 本当にかんみさんの作品好きすぎて、更新されるたびにキュンとニヤニヤが止まらないです。笑、これからも頑張ってください^^ (2021年1月10日 14時) (レス) id: f04d7ddf7d (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - ユリアさん» 初めまして。ユリアさんコメント嬉しいですー!私も作品読ませて頂いてます(歓喜)。胸がいっぱい...、ありがとうございます!頑張りますー! (2021年1月9日 13時) (レス) id: f3524979ff (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:かんみ | 作成日時:2021年1月1日 16時