2話 ページ4
私の目の前には、黒髪の天パの男性。
私の方を真っ直ぐに見下ろしてくるその姿はさながらヤのつくお家の方にしか見えない。
そして、思い切り睨んでくるのでもう怖すぎて自分で自分を、殴りたくなった。
すると、驚きと恐怖で声が出ない中、
なんと私が体当だった男性が口を開いた。
「あ、いや。こっちもちゃんと周り見れてなかったわ。悪かったな」
おっと、優しいタイプのヤクザだった。
私からぶつかりに行ったも同然なのに、サラッと謝罪してくれる。
そして、それに対し私も謝り返す。
『え、いや、こっちが悪かったん、で……』
そこまで言って、気づいてしまった。
頭を下げて謝罪をする時に、
私は、自分の腕時計に目がいってしまったのだ。
そしてその時計は、長針が11の数字を指している。
うっそだろ、あと、5分しかねぇっ!!!!
自分の置かれた状況に気づいてしった私。
取り敢えず大学に行こうと思い、男性の方を見る。
そして口を切る。
『あ、ぇ。えっとすみません…!ちょ、時間がまじでなくて、ですねっ。あっと、あの、こ、この埋め合わせは必ずするんでっ!』
焦りすぎて正しい日本語を話せない。
私は、絶体絶命の状況に陥ると言葉が吃るようだ。
吃音過ぎて、傍から見たら何を言っているのか分からない気がする。
『だから、その…まじでごめんなさい、もう二度とこんなことしませんのでっ、失礼しまぁす!』
「あ、おいっ」
そして、男性の静止も聞かずに大学へと一目散に走った。
NOside
引き止める間もなく走り去っていった女の後ろ姿を見つめながら、
男は、あるものに気づく。
1、2メートル程先に落ちている小さな薄いもの。
男はそれを拾う。
何やら、学生証らしきものだった。
「東都大学経済学部、1年…藤野A……ね、」
そう呟いて口角が上がる。
この時点で1人の個人情報がダダ漏れてしまっているのだが、
大学まで全速力で走っている張本人の女は、そんな落とし物など気にする余裕は無かったのだった。
『まじでやばぁぁい!まって、あと1分!?おわったぁぁぁ』
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作者名:美弦 | 作成日時:2024年1月2日 21時