検索窓
今日:41 hit、昨日:286 hit、合計:135,384 hit

看病 壱 ページ34

梨花妃の容体は思った以上に悪かった。
雑穀の粥を重湯に作り直したが、匙から吸う気配はないので口をこじ開けて流し込み、ゆっくり嚥下させる。

食事をとらない。それが一番の問題だ。
Aは根気よく、しつこいくらいに食事を与えた。

部屋の換気を行うと、むせるような香が薄れ、かわりに病人特有の匂いがする。
病人臭をごまかすために香をたきしめていたのだろう、風呂にも何日も入っていないようだ。無能な侍女たちに憤りが増す。

折檻を受けた侍女は謹慎を言い渡されたらしい。おしろいは買い置きを隠し持っていたものだった。可哀そうに、おしろいを回収しそこなった宦官は鞭打ちになったというのに。生まれで罰も左右されるのだ。

統括する宦官には、Aが侮蔑をこめてじとりと見つめたが、きょとんとされたのであまり意味をなしてなかった気がする。

なんせAの表情は読み取りづらいのだ。その理由は後でわかる。


湯桶と布を準備させ、呼びつけた侍女たちとともに梨花妃の身体を拭く。侍女たちは難色を見せたが、Aが何も言わず静かに見つめると大人しくしたがった。

肌は乾燥し、水をはじかず、唇は痛々しげに割れていた。紅の代わりにはちみつを唇に塗り、髪は簡単に結わえる。

あとはことあるごとに茶を飲ませる。時折、茶の代わりに羹を薄めて与える。
小用の回数が増える。

怪しげな新参者に敵意を示すかと思ったが、人形のような梨花妃は概ね大人しく世話を受けていた。うつろな目は、誰が誰かを認識しているかどうか、わからなかった。

一度に飲む重湯の量が茶碗半分から一杯に増えると、少しずつ中の米粒の量を増やしていく。顎を押さえずとも自分で嚥下するようになると、肉の旨味をとじこめた汁物とすりおろした果実を加えた。


看病をしていた時のことである。
ふと梨花妃の唇が動いた。

「……して、……のか」

漏れ出る言葉を聞き取るため、Aは梨花妃のそばに立つ。

「どうして、あのまま死なせてくれないのか」

小さな消え入りそうな声だった。

Aはしっとりと落ち着いた声で言う。

「ならば、食事をとらねばいいことです。粥を食むということは、死にたくないからでしょう」

と、温めた茶を梨花妃の口に含ませた。

こくんと喉が鳴ると、

「そうか……」

梨花妃の唇からかすれた笑いがこぼれた。

   弍→←   肆



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (50 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
253人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2024年1月18日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。