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二人の妃 壱 ページ3

「あーあ、やっぱりそうなんだ」
「ええ、お医者様が入っていったのを見たって」

汁物をすすりながらAは耳を傾ける。広い食堂では数百人の下女が朝餉をいただいていた。内容は汁物と雑穀の粥である。

斜め前に座っている下女が噂話を続ける。気の毒そうな表情をしているが、それ以上に好奇心が目の奥で輝いていた。

「玉葉さまのところも、梨花さまのところにも」
「うわー、二人ともなんだ。まだ、半年と三か月だっけ?」
「そうそう、やっぱり呪いなのかしらね」

でてきた名前は、皇帝のお気に入りの妃たちの名前である。半年と三か月というのはそれぞれが生んだ宮のことであろう。

宮内では噂話が闊歩する。それは、帝の御手付きの宮女の話やお世継ぎについて、はたまたいじめや僻みによる悪評もあれば、うだる暑さにふさわしい怪談めいたものまである。

「そうよね、でなければ三人も亡くなられるわけないわ」

それは、妃たちの生んだ子ども、つまり世継ぎとなられる宮たちのことを指していた。今の帝が東宮だった時代に一人、皇帝になられてから二人、どれも乳幼児のころに身罷られている。幼子の死亡率が高いのは当たり前であるが、殿上人の子が三人ともとなるとおかしい。
現在は玉葉妃と梨花妃の二人の子どもだけが生き残っているが、その二人の命も危ないということだった。

(毒殺ではないのかな)

白湯を含みながらAは考えるがそれは違うと結論に至る。
三人の子どものうち、二人は公主だったからだ。男子のみ継承権の与えられる中で、危険を冒してまで姫君を殺す理由などほとんどない。

前に座っている二人は箸も進めず、呪いだの祟りだの言っている。

(だからといって呪いはね)

くだらない、その一言につきる。
呪いをかけるだけで一族郎党皆殺しとなる法がある世の中、Aの考えはむしろ異端といえる。
しかし、Aの頭にはそう言い切れる根拠となる知識があった。

(なんらかの病気か?もしかして遺伝的なもの?どういうふうに亡くなられたのだろう?)

無愛想で無口と言われた下女がおしゃべりな下女たちに話しかけたのはそのときだった。

好奇心に負けて後悔するのはそれからしばらくのことである。

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作者名: | 作成日時:2024年1月18日 22時

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