僕のこと知ってる？ (ページ2)

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「で、何がどうしてここにいるんです？」

彼女の家に連れられ、向かい合わせの椅子に座り、事情聴取を受けている。

彼女は、相羽糸といって、芸能事務所で、アイドルをしているそうだ。

僕は知らなかったが、巷では有名なアイドルグループに所属しているらしい。

「案外有名なんですよ？私。」

と、少し自慢げに呟く彼女が可愛く思えたのはここだけの話だ。

僕は、彼女にスマホも財布もないこと、記憶がなく、過去のこと、自分のことが何も分からないということ、もちろんこの街へきた経緯も分からないということを話した。

彼女は怪しそうな目でそれでも、分かりました。と、僕の事情を理解してくれた。

「ねぇ。やっぱり、僕のこと知らない？
あったこと、ないよね？｣

ほんの少しの希望を乗せて、彼女に問うが、首を振るばかり。

何か隠していそうな気がして、それでも、ここまで親身になってくれる人に出会っていなかったからか、それ以上踏み込むことは出来ず、そうだよね。と諦めた。

「んー、やっぱ、交番ですかね。」

考え込んでいた彼女が顔を上げそう言う。

帰れるかもしれない、という希望と、警察署という未知の空間に身を託す不安が入り混じる。

準備してきます。そう、投げかけどこかえ消えた彼女。

今日一日の事が頭を巡って、頭痛がする。
目を閉じ、空想に耽ける。

もし、このまま帰れなければ…
いやな考えが脳を支配する。

「お待たせしました。」

彼女の声で現実に引き戻される。

目を開け、顔を上げる。

へ？

見事に変装した彼女を見て変な声がでる。

芸能人なんだな。と妙にさっきの発言に信ぴょう性が増した。

外へ出る。

あまり、近くで歩かないでください。
そんな注意を頭の片隅に置き、一定の距離をとりながら歩く。なんでも、週刊誌に張られてるんだとか。

「大変ですね。」

「ほんとにね。」

彼女は苦笑する。

「君が羨ましいよ。誰も私を知らない。顔を晒しても気づかれない。そんな世界に私も行ってみたくなる…」

夕日が彼女の顔に影を落とす。

「たまに思うの。人混みの中を変装なしで歩けてたあの頃の方が、もしかして幸せなのかもって。お仕事が増えて、ファンが増えて、今すごく幸せなはずなのにね。」

彼女のこぼす言葉は、どこか寂しげで、彼女自身にしか分からない苦労があるのだろうと悟る。

「ホントの私は一体誰なんだろう…」

その言葉が、強く印象に残った。