【MS.SP】短編集2 (ページ38)

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M.S.S.Partner【F】-１ページ38

Like many Faculties

__貴方の持つ、たくさんの才能のように

ヘッドフォンを耳に装着し、スマホで音楽アプリを開く。
そうしてお気に入りから探し当てたのは、「M.S.S Project」の欄に入っている『FB777』の文字。その項目から、特に気に入っている曲の題名をタップした。
質の良いヘッドフォンから、彼独特の音楽、そして大好きな彼の歌声が聞こえてくる。伸びのある、大きな声。
「⋯⋯良い声だなぁ」
その歌声を聴きながら、Aはうっとりしながら思わず独り言をもらした。
FBの作った世界観に浸り、彼に思いを馳せる事が出来る自分。なんて幸せなんだろう。
歌声に合わせて、自分も口ずさんでみる。当たり前ではあるが、この素敵な声には遠く及ばない。だが、なんだか上手くなった気がする。
「⋯⋯なんだろ。FBのおかげかな」

＿＿Aがひたすらに賞賛する彼は、Aの彼氏である。学生時代、ずっと教室の隅にいたAを見つけ、それ以来ずっとAを照らしてくれていた、Aの太陽だ。
AとFBが交際を始めて、今日でもう1年が経つ。
「⋯⋯1年、かぁ」
馬鹿でかい声で優しくAを呼び、大きな体躯で小さなAを抱きしめ、強い力で柔らかくAを包み込むFBを思い出す。

「⋯⋯へへ。ふふふ」
大好きなFBから今までに貰った愛に思いを馳せると、思わず頬が緩んでしまう。そんな彼の曲を聴いているのだから尚更だ。
「えふびー⋯⋯えへへ」
我ながら気持ちの悪い声だなとは思う。だが、心から愛する彼氏のあれやこれやを思い出して頬を緩ませない人がいるのか、と正当化する。

だらしなく弛緩している口元をスマホで隠す。これを見られては大変だ。⋯⋯というより、恥ずかしい。
普段からFBに甘えてだらしない表情をこれでもかと見せているとは言え、『あなたがいない家で1人であなたの事を想っていました』なんて明かすのは恥ずかしいのである。

腰掛けているソファーで、ぐでーっと力を抜いた。その流れで背もたれに頭をのせ、天井を見つめる。
『好き』
彼の歌ではなかなか聞けない愛の言葉を独り占め出来る自分は、どれだけ幸せなのだろう。
音楽的な事はよく分からないが、とにかく、彼は才能を持っている様に思う。
様々な人に愛と夢を与え、世界を照らしてくれる才能を。