【MS.SP】短編集2 (ページ27)

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徒波【Ｅ】-２ページ27

そのテーブルを離れる口実として、Aはドリンクバーに向かおうと席を立つ。すると、詩穂がAを見上げた。
「ん、詩穂？どしたの？」
「あ、ドリンクバー？通れる？」
立ち上がったAに声をかけたのは、よりによって詩穂とあろまだった。えおえおはこちらを見てすらない様だ。
＿＿あなた達じゃない。あなた達じゃなくて。
また、心が乱される。口を開けば、泣いてしまいそうだ。

「⋯⋯、うん、ドリンクバー。大丈夫だよあろま、通れるよ」
涙を飲み込む様に息を吸い、あろまと詩穂に笑ってみせる。コップを持っていない右手で、ギュッとズボンを握った。

赤い液体の入ったコップ(確かアセロラジュースだった気がする)を握り、テーブルに戻った。3人の談笑は未だ続いており、喉の奥がぎゅうぎゅうと締め付けられる。
「あ、おかえり」
「⋯⋯うん。仲がよろしいご様子で」
笑顔でAを見上げた詩穂に、皮肉の意味もこめて言葉を発する。詩穂はえへへと頬を掻いていた。

「なぁA、それ何ジュース？」
ジュースを見たあろまが、Aに問う。
「アセロラジュース」
「へー、赤じゃん。俺の色だな」
「わ、嫉妬しちゃう」
それを聞いた詩穂が、冗談交じりに眉を寄せた。
「えおえおの色は緑じゃん。さっきみたいに、メロンソーダ飲めば良いのに」
「好みなんだから関係ないでしょ」
Aも冗談交じりに笑う。冗談交じりを意識しながら。

Aがアセロラジュースを選んだのは、アセロラジュースが特別好きだからではない。えおえおに嫉妬させるためである。
子どもっぽい手法だとは思ったが、メロンソーダを選んだのは『緑がえおえおの色だったから』なので、どっちにしろ子どもっぽい。
⋯⋯しかし。

「⋯⋯んで、なんだっけ」
「え？あ、お前が昼飯忘れたからって詩穂に弁当ちょうだいって言った話」
ちらりと盗み見たその横顔は、Aの存在すら認識していないのではないかと疑う程に、Aを気に留めていなかった。
「⋯⋯ぇ、」
『おかえり』すらも言われない。本当にAの存在も認識していないのか。この行動にはさすがにあろまと詩穂も驚いた様で、しどろもどろになりながらえおえおとの会話を再開した。

＿＿なんで、どうしたの、えおえおくん。なんで。
掻き乱された頭の中を、その言葉が埋め尽くす。今すぐにでも立ち去りたかったが、Aは震えながら元の席に腰を下ろした。