【MS.SP】短編集2 (ページ22)

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Like summer 【Ｅ】-１ページ22

体中にまとわりつく様な熱気と湿気。ああ、どうして日本の夏はこんなにも暑いのだろうか。
顔の汗を服の袖で拭いながら、Aは地面を踏みしめる。
ふう、と息をつくと、向こうに誰かがいるのが見えた。
＿＿誰、だろ。
その呟きは、言葉にならずに空気へ溶けた。
その誰かの正体が気になったので、早く辿り着きたい。けれど、暑さのせいで走れそうにない。なんなら歩く事すらままならない。
荒くなる自分の呼吸が、やけに耳についた。

ああ、足が痛い。暑い。キツい。疲れた。もう嫌だ。助けて。ああ、ああ、ああ＿＿

＿＿えおえお。

「⋯⋯、」
「あ、A。起きた？」
ふと目を覚ました。Aは右半身を下にして横たわっていて、目の前には恋人のえおえおがいた。
右手にはスマホを握っており、空いた左手でAの頭を撫でる。
身じろぎ1つしないまま、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。脳内に、何かの映像が流れた。
⋯⋯ああ、あれは夢か。ここは、えおえおの家だ。真夏を歩かなくて良いんだ。
寝起きでぼやけた思考でえおえおの温もりを感じながら、ふぅと安堵する。

「⋯⋯えおえおぉー⋯⋯」
「ん？」
えおえおのお腹から腰にかけて、自分の腕を回した。鼻で息を吸うと、えおえおの匂い。
この匂いの中に、私も溶け込めているのかな。
そんな事を考えながらぐりぐりと頬を擦り付ける。
「ふふ、甘えんぼさん」
「そーだよ、えおえおの事、大好きだから、⋯⋯？」
Aの口が、話していた時の状態のまま止まった。えおえおがその顎をすくい上げたからである。
「⋯⋯どうしたの？」
「いやぁ、可愛い唇だなぁって」
「ふふ、何それ」
Aが頬を緩めると、えおえおも頬を緩めてキスをした。

「⋯⋯そういやさっきさぁ」
触れるだけで唇を離したえおえおが、思い出した様に言葉を紡いだ。
「ん？」
「寝言で俺の名前呼んでたんだけど、なんか夢見てたの？」
「⋯⋯そうなの？」
「うん。めっちゃ声小さかったけどね、『えおえお』って。
Aが起きてるのかと思って見てみたら目は閉じてるから、ビックリしたよ」
そんな声を聞きながら、Aは頭の中で渦巻く夢を思い出す。
遠く、誰か、歩く＿＿
そんなイメージが先行した。
その誰かを目指しながら『えおえお』と呼んだのであれば、その誰かがえおえおだったのだろうか。
⋯⋯確かに、付き合う前は、彼は遠い存在だと思っていたけれど。