【MS.SP】短編集2 (ページ11)

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瓶の中【Ｅ】-２ページ11

「まぁ、貴方がいてくれて助かりました。廃棄って結構面倒なんですよ」
ペラリと紙をめくり、何かを書き込んでいる。そして研究員の彼が呟いた。

「⋯⋯えおえおみたいな優しい方に引き取られるなんて、Aも幸せだなぁ。俺も幸せになりてぇよ。あんな所見せられて、ここから離れられる訳もないけど。
えおえおも、良く帰ってきたなぁ」

⋯⋯これは、触れてはいけない話だろう。何故俺を呼び捨てに出来るのか、何故俺が「良く帰ってきた」のか、という疑問を抱いたが、聞かなかった事にしようと決意を固める。
大きくひそめられた細い眉が、印象的だった。

「それでは、Aをよろしくお願いします。経過報告もお願いしますね」
「はい。こちらこそ」
Aが入った瓶、そして彼女の寝床になると言う箱庭を抱え、研究所の扉を開ける。
⋯⋯どうにも息苦しく、居心地の悪い場所だった。

「⋯⋯あの、お名前を伺ってもよろしいですか」
「⋯⋯どうしてです？」
レンズの奥の青が、愛想よく細められる。⋯⋯愛想はいいが、よそ行きの笑顔である。
「んー⋯⋯なんて言うか⋯⋯気になった、って言うか⋯⋯」
「まぁ、『袖触れ合うも他生の縁』とは言いますがね」
ふふ、と微笑む。よそ行きには変わりないが、穏やかな笑顔で。
「お教えしませんけど」
その笑顔のまま、あっさり断られた。食い下がっても教えてくれなさそうだ。
「⋯⋯ダメですか」
「ダメです。そもそも、ここに勤める人間に〝名前〟なんて聞いてはいけませんよ」
ここの人間は、〝数字でしかない、幾らでも替えがある人形〟に過ぎないんですから。
そう言って、彼はどこか寂しそうに笑った。

その研究員の彼に家まで送ってもらい、礼を述べて家に入る。
悲しそうな寂しそうな、過去を懐古する様な瞳が脳裏にはっきりと刻まれていて、モヤモヤが大きくなる。
気にしたって何にもならない事は分かっているが、彼に対する既視感にも似た何かと、研究所の息苦しさや居心地の悪さを覚えたせいで、気にしない訳にはいかなかった。
玄関を開けると、クロエがとてとてとリビングへ歩いてくのが見えた。
レオパに餌をやり、自分もリビングへと向かう。