透明染色～滲～ (ページ2)

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轟焦凍は幼馴染だ。
と言っても、俺は彼自身の性格や物事の好き嫌い以外は大して知らない。
そんな薄っぺらい上辺しか知らない俺は、もしかしたら、名ばかりの幼馴染とも言えるだろう。

そしてそれは、轟も同じだ。

俺達はお互いの上辺は知っていても、その中やお互いの環境…つまり、

「昨日、お母さんに会ってきた」

家族、なんてのは全く触れてこなかった。
というより、俺は”触れさせなかった”。轟は”触れてほしくなかった”と言った方が正しい。
それを俺は暗黙のルールとして轟へ強制したし、彼もそれを甘受した。
何故なら轟は知られることを、結果的に俺が彼から離れることを恐れていたから。

そして俺は、壊されたくないから。

俺だけの”日常”を。
俺が選んだ生き方を。

俺がつくった”今”を。

誰にも、触れてほしくないから。

「リク、俺の…俺達の話を、聞いてほしい」

『…それは…』

「お前のことは聞かねぇよ。…知りたいとは思うけど、リクが、俺に聞いてほしいって思うまで、ちゃんと待つ」

『！』

真っ直ぐ、だ。

轟が変わったのは、今日会った瞬間に感じた。
良い方に変わった。
だから、轟はこんなことを言うのだ。
本当は、怯えているくせに。
本音は、今すぐ話してほしいくせに。

―ッ…リクッ…リク…！―

あんなに、泣き虫で、怖がりだったはずなのに。

『…轟』

「？」

『お前、やっぱ変わったな』

「…そうか？」

『うん。俺は好きだよ』

首を傾げる轟へ、軽く笑う。
ティカップの残りのコーヒーを飲み干して、伝票を手に立ち上がった。
デリケートな話は外でしない方が良いに決まっている。

『(そろそろ引き際だな…)』

会計を済ませて店を出る。
道行く人々を眺めながら、ふと、そんな風に思った。

『(変わった、もんな…)』

俺を待つと、そう言った轟に、きっと俺が応えることは無いだろう。
轟は、この距離を縮めようとしている。
お互いに線引きした、この距離を。
変わり始めた彼が望むのは、きっとゼロ距離。
俺にハッキリ「知りたい」と言葉にしたのが、その証拠だった。

嬉しく思う。当然だ。
それでも俺は、轟には今まで通り”名ばかりの幼馴染”でいてほしいのだ。

轟自身がこれからもっと、変わって行くのだとしても。

「…リク」

『なに？』

「抱きしめていいか？」

『……』

変わっていく…よな？