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それからリビングに戻って、冷めきった中華まんを母に温めてもらった。
その時「チンしてください」と声をかけたみずきちゃん素顔Ver.に、お母さんは叫びにも似た驚きの声を上げていたのは余談だ。
「みずきちゃんは将来絶対美人さんになるわね！」
「ん？……ならない」
「あら、どうして？」
「わたしは、母さんに似てないから」
「みずきちゃんのお母さんってどんな人？」
僕の問いかけに「んー」とみずきちゃんは最後の1口を口に入れた。
飲み込んで、「母さんは…」。
「母さんは、キレイな髪で、優しくて、カッコ良くて…隣のオジサンもオバサン達も美人さんって言ってた」
「…みずきちゃんはお母さんのこととっても好きなのね」
「…ん。大好き。母さんみたいになりたい」
お母さんに頭を撫でられる彼女の声音は、心做しか弾んでいるようだった。
「みずきちゃん学校で好きな男の子いないの？」
「好きな男の子？」
「うんうん！」
空になったコップに再びココアを入れてお菓子と一緒に帰ってきた母の問いに身体が強ばった。
ココアを受け取って、コクリと飲む彼女に、その時の僕は物凄く緊張していた。
「いない」
「あら」
「でもいずくは好き」
「あら！」「はぇ！？」
「良かったわね！出久！」とバシバシと背中を叩かれるが、それどころでもなければ声も出なかった。
「出久のどこが好き？！」と詰め寄る母に僕の脳内はショート寸前で。
「全部」
「可愛い！！」
「いずくといると、暖かいから。いないと…なんか、嫌な感じする」
−だから、好き。ずっと−
その声を最後に、僕の思考は完全に停止した。
お母さんの興奮した叫びも、みずきちゃんが名前を呼ぶ声も、暫くは全く聞こえなかった。
それくらいキャパオーバーだったのを覚えてる。
「じゃぁ、バイバイいずく」
「うん…」
「……」
「…みずきちゃん…やっぱり」
「泣くなよ」
「うっ…って、だって……ぅっ…ヒック…！」
「……」
ゆっくりと、頭を引き寄せられて、歪んだ視界にコートのボタンが映る。
優しく頭を撫でられて、更に溢れた涙がコートに染みていった。
その日を境に、みずきちゃんの姿を見ることはなかった。
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作者名：ソーカ | 作成日時：2019年2月21日 18時
