『A』番外編「メモリー」 (ページ18)

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泣きながらへっぴり腰で、名前も知らない少年を庇うように、爆豪の前に出た緑谷。
それを毎回の如くボコボコにしている時、彼が珍しく小さく助けを呼んだのだ。
本当に、蚊の鳴くような声で、ただ『たすけて』と一言。

その瞬間、緑谷を包んだ水球。
その後ろから、音もなく現れた少女に爆豪とその友人二人は目を見張った。
誰だよテメェ！と威嚇するように両手を爆発させる爆豪へ、彼女は躊躇なく近づいて。
『通りすがり』言いながら、彼女が爆豪の両手に色白のそれを重ねた。

途端、消えた爆発。

目の前の現象に、爆豪もその友人も驚愕に顔を染める。
いつの間にか緑谷に庇われていた彼も水球に覆われていて。
それに手を付けて立ち去ろうとする背中に、無性に腹が立ち、問いただそうと足を１歩踏み出した。

踏み出そうと、した。
が、足は縫い付けられたように、ピクリとも動かない。
見下ろすと靴底に微細な氷が見えた。
そのまま水球と共に公園を去って行った背中を、当時の爆豪は現在と同じく鬼の形相で睨みつけた。

－爆豪勝己－

(あの時のガキ……)

もしかして、と爆豪の脳裏に狐面が過ぎる。
水揮が窓から現れた日。
その時の水揮も、あの少女のように自身の爆発を収めていた。

が、如何せん少女の顔がぼんやりとしか思い出せない。
たしか解構のような獣耳が生えていて、尻尾もあった。
髪は……黒だったような…。
待てよ、水揮は白髪に端々が藍色という、轟並みの派手な髪色だ。
なにより、水揮に少女のようなモノは生えていない。
ということは違うのか？
しかし、水揮も少女のような水の個性を使っていたし…

「ッだぁあクソ！！！全っ然思い出せねぇっ！！！」

頭を掻き毟り、両手を見つめる。
少女とは、あの時以降1度も会ったことがない。
水揮に関しても、親しくも無ければ、個性すらわからない。

モヤモヤとした何かが、爆豪の中で渦を巻く。

苛立ちに舌を打って、足に感じた冷たい何かに眉を寄せた。
指の間から覗くソレは、だんだんと広がって。

右足の傍らには、見覚えのあるペットボトル。

いつの間にか落とした、ミネラルウォーター。

「っ！クソがぁあああ！！死ね！！！」

「叫ぶな勝己ぃっ！！！近所迷惑でしょうがっ！！」

「テメェがうっせえんだよクソババア！！」

タオルで床を拭きつつ怒号を飛ばす爆豪を、彼の母親が引っぱたくまであと５秒。