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「その…お面、態々創ってくれて…とても、助かった……ありがとう」
「そんな、気にしないでください」
頭を下げた水揮に、八百万の慌てた声がかかる。
二日前のマスコミ騒動で、密かに侵入者と戦った際、爆風によって面を固定する紐が切れ、どうやら落下した時に割れたらしい。
ストックが切れた事を相澤に伝えると、翌日に八百万に創らせたと、少し模様の違う狐面を持ってきたのだ。
顔を上げた水揮は、遠慮がちに口を開く。
「唐突なんだが、百は他人の作った食べ物は、平気か？」
戸惑いがちに答えられた、気にしないの言葉に、安堵して、漸く紙袋の中へと手を入れる。
取り出したのは他よりも大きい黒い紙袋。
白のリボンが付いた小洒落たシールが、右上に控えめに貼られているのが、どこか高級感を匂わせた。
余談だが、ここで後方引き戸より上鳴と切島が教室へ足を踏み入れ、即座に声を潜めて彼女達の成り行きを食い入るように見つめていた。
「ぇと…コレ、お礼の…。
その…百の口に、合うと良いけど…ぁ…合わなければ、破棄、してくれ。
その…百…受け取って、欲しい…」
カサリ。
先程の彼らへ向けたのと同じように、控えめに差し出された紙袋と、俯く水揮の尻すぼみして行く声音に、八百万の胸が鳴る。
「水揮さん…っ」と湧き上がる感情を抑えるように、胸元で両手を組む八百万の後ろで、同じような感情から胸を押さえる数名と、切島と上鳴が胸中で声援を送る。
「っ、私のために、ですか…？」
「うん。…その、本当は、実用性のある物の方が良いと、思ったんだが…君は、間に合ってると思った。ので。
そ、れに、手作り菓子の方が、感謝が伝わる、と、聞いた。から、でも、百の好みが解らなくて…それでも」
「……」
そろりと、覗き込むように顔を上げた水揮の声が、いつの間にか静まった教室内に響いた。
「一生懸命、作った。私なりに。ので…
受け取って、くれないか？」
『っ！』
「っええ、ええ！勿論ですわ！！とっても嬉しいです！」
まるで青春の１ページのようなやり取りに、各所で悶える者がその身を震わせる。
水揮の両手ごと紙袋を自身のそれで鷲掴んで、身を寄せた八百万に安堵した彼女の背が再び若干反った。
「青春やぁあっ」
「良かったねぇ水揮！」
「なんだかバレンタインデーの告白シーンみたいだったわね」
「めっちゃドキドキしたぁ！」
(告白って、何の？)
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作者名：ソーカ | 作成日時：2018年5月22日 23時
