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「食べます」
「え、別に無理にとは…」
食い気味に言う上鳴に、水揮の顔が上がる。
「いや食う。食わせてくれ」と何故か真剣な表情の上鳴。
その隣で切島はブンブンと顔を上下する。
そんな二人の言動に、正直困惑していた水揮だが、それよりも二人が食してくれることの喜びが勝って、感情のままに礼を言った。
その礼の言葉に、またもや二人の心臓がグッと音を立てたのは余談である。
立ち食いは如何なものかということになり、近くの空き教室に入った。
机と椅子のストックが並んだそこから、上鳴は一番手前の椅子を引き寄せて水揮へ腰掛けるように促す。
礼を言って座る水揮に、上鳴と切島は各自机へとその腰を下ろした。
袋を開けて、二種類の小袋を差し出す。
小麦色の紙袋が甘さ控えめのビターチョコレート、白い紙袋がミルクチョコレートで作ったモノだと伝え、受け取った二人の動向と表情を食い入るように見つめた。
「…怖ぇよ空無」
「？」
「そんな見られると食べ辛いって…」
「あぁそうか、すまん…」
言うや否や、前傾姿勢を正してすぐさま面の上から細穴を両手で隠した水揮に、上鳴と切島から失笑が漏れる。
「なんだ？」とそのまま軽く首を傾げた水揮へ、なんでもないと二人は平静を装った。
その顔が大胆にもニヤけている事や、肩を震わせている事など、今の水揮が知る由もない。
気を取り直して、彼らはブラウニーを口内へ運んだ。
その様子が音から伝わり、水揮の背筋が自然と伸びる。
『……』
人は、心底美味しいと思うモノに出会うと、無口になるらしい。
無言で咀嚼する彼らを、水揮もまた無言で、音だけでその様子を感じた。
あっという間に無くなった二つの小袋を、クシャリと握り。
「空無」上鳴は重々しい口ぶりで。
彼らの心情など微塵も知らない水揮は、その声にどこか徒ならぬ雰囲気を感じた。
渦巻く不安で、視線を塞ぐ手に僅かながら力が入る。
口に合わなかったのか。
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作者名：ソーカ | 作成日時：2018年5月22日 23時
