空無 水揮 ページ37
【第9話：空無水揮】
「衰えた？全然弱ってないじゃないか…っ」
「あいつら、俺に嘘を教えたのか？」首を掻きながら呟く死柄木の言葉に、水揮は怪訝に目を細める。
何故、オールマイトが弱っていると知っている。
言葉からは死柄木以外にもそれを知っている者が、少なくとも二人以上いる事が読み取れる。
どういうことだ。
「どうした…来ないのかな？クリアとか何とか言ってたが……」
土埃が漂う中、オールマイトの声が響く。
「やれるものならやってみろよ」鋭い眼光に怯え、死柄木は後ずさる。
その様子に、流石だと賞賛する轟達が佇む緑谷へ撤退しようと声をかけた。
背を向けて駆けて行く彼らの様を背中で感じながらも、水揮はオールマイトと敵から視線を外さない。
限界だと。おそらく彼はもう1歩たりとも動けない。
虚勢を張って、相手を迷わせるオールマイトの身体から漂う蒸気が、少しずつ増えていく。
時間を、稼いでいる。
もう少しで、雄英のヒーロー達が駆け付けるからだろう。
脳無がいればと、首を掻き毟る死柄木を黒霧が宥める。
声を潜める黒霧に、死柄木は首から手を離した。
(！)
視界の角で倒れていた『敵』が目を覚ます。
次々と起き上がる敵に、水揮は小さく舌を打った。
動かない緑谷を気にしてか、立ち止まっていた彼らへ敵が近づく。
「主犯格はオールマイト達が何とかしてくれる！」
他のクラスメイトを助けに行こうと、戦闘態勢をとる切島に爆豪も目の前の敵に構える。
そんな彼らに気付かずジッとオールマイト達を見つめる緑谷に、轟の声がかかるが、彼はそれどころではなかった。
緑谷は知っている。
オールマイトの限界を。
もし、敵が動けばオールマイトは…。
水揮も息を乱し始めた。
あの傷では彼女もおそらく、もう動けないだろう。
(僕だけが知ってる、ピンチ…)
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作者名：ソーカ | 作成日時：2018年5月22日 23時
