手を伸ばす、その先へ ページ16
午後の予鈴のチャイムに、いち早く飯田が反応し、全員に着席を促す。
水揮もブレザーのポケットに端末を仕舞い、八百万と共に席に着いた。
各々の席に着くも、近所同士で談笑してしまうは学生ならではだろう。
本鈴が鳴らない限り、担任が入室しない限り、教室は生徒のものである。
(今日はたしか、救助訓練だったな…)
今朝のオールマイトからのメッセージを思い出し、次いで相澤の言葉も思い出す。
−今日のヒーロー基礎学は俺も着く−
−予定では号さんとオールさんだけでは…あ、この前の侵入者の件ですか？−
−ああ。念には念をってやつだ−
先日の一件で、雄英の危機管理意識は当然高まり、それに伴い校内での防衛システムも大幅に強化中。
生徒の安全を第一に、ということである。
今回は課題を出されていない。
その代わり、もしもの時に動けるように、万全に備えて生徒達のサポートに当たれとの事。
「……」
そう言った相澤の表情は、どこか苦し気だった。
偶に見る表情。
相澤以外にも、時折見るものだった。
何故かは解らない。
何故、あんな表情を浮かべていたのか。
ただ、最近になって分かった事。
彼らがあの顔をするのは、決まって……
「水揮さん？」
「…あぁ、悪い。移動か」
「はい。水揮さんは今回どのような課題を？」
「いや、今回は出ていないよ。
君達のサポートを、全力でするようにとだけだ」
決まって、契約上の話をする時に。
【第6話：手を伸ばす、その先で】
緑谷出久は、悩んでいた。現在進行形で。
彼女に聞きたい事がある。
凄く気になることだ。
入学時から気になっていた。
彼女、空無水揮は。
(やっぱり、『みずきちゃん』じゃ…)
幼い頃、よく一緒に遊んだ女の子。
緑谷には水揮が、その子に思えてならない。
何故ならその子も狐面を着けていたのだ。
髪色は黒だったが、そんな事は彼女が言葉を発した瞬間から、瑣末な事と成り果てた。
似ているのだ。雰囲気が。
喋り方や、間の取り方など、彼女の雰囲気全てがあの子を匂わせる。
なにより、水揮の声が、緑谷には酷く心地良い、懐かしい感覚がしたのだ。
視線の先には、誰かと通話するコスチューム姿の水揮。
男性陣よりもその着替えは早かった。
今回は体操着での参加である緑谷は、他の者よりも割と早く済んだのだが、待機場所には既に水揮の姿があった。
当然女性陣はまだ一人も来ていない。
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作者名：ソーカ | 作成日時：2018年5月22日 23時
