『A』② (ページ1) - 小説/夢小説

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空無さんの御礼ページ1

【第5話：空無さんのお礼】

「あれ、空無さんじゃね？」

「ん？お、ホントだ」

昼食を終え、教室へ続く廊下を駄べりながら歩いていた上鳴と切島の視界に、二日ぶりの姿が映る。
窓からのバンジージャンプ以降一度も見かけることのなかった彼女。
…まぁバンジー(命綱)もしていなければ、ジャンプもしていなかったが。

肝の冷えるというか実際に冷えた、脳裏に過ぎった光景に、上鳴はそれを誤魔化すように「用事、大丈夫だったんかな…？」と何とも言えない表情を浮かべる。

「さぁ…あ、肩パン喰らった」

「ホントだ、なんか意外」

喰らったのは当たり前だが水揮ではなく、彼女と話す白髪獣耳の男子生徒。
時折浮かべる含み笑いからは、残念ながら会話内容までは聞こえない。
無表情で何言か喋った後、軽快な動きで彼女の周りを回る。
同じ色の大きな尻尾が彼女の頭を小突くように揺れた。

手を軽く挙げて、彼女に背を向けた彼が此方に向かって歩く。
左手に何かの分厚いリングファイル。
右手には、おそらく洋菓子である焦げ茶色が。
口に最後の一欠片を放り込んで、無表情の彼は二人の横を通り過ぎた。

が、スタスタとバック歩行で戻る。

「A組の人だよな」

「お、おお」

「そーだけど…」

指先に付いたものを舐め取りながらの問いに、切島も上鳴も困惑して返答。

正直、どういった姿勢で対応すれば良いのか悩みどころである。
目の前の彼は、おそらく同級生だろう。
このフロアには1年教室しかない。
自分達とは逆方向へ進むことから、サポート科か普通科だろうか。

なんにせよ、あの空無水揮と、楽しげに…彼女の表情は解らないが。
少なくとも、水揮から痛くない肩パンを喰らうくらいには、A組女子よりは気心の知れた関係だと伺えた。

だからこそ、思った。

(どういう関係だ？)
(あの気難しい空無さんから肩パン？！)

切島は首を傾げ、上鳴はゴクリと喉を鳴らす。

そんな心情を覗いたかのように、指先を映していた金色の双眼が二人へ向けられた。