『A』 (ページ5)

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無個性だと、本人はたしかに言っていた。

その言葉を裏付けるように、今のところ彼の記録はこれと言って飛び抜けたものは無い。
それに、彼がこのクラスに在籍出来ていること自体も、水揮には不思議でならなかった。

知り合いから聞いた話、レスキュー・ポイントのみで合格したらしいが。

「(ぶん殴ったって…レスキューなのか？)」

生憎と現場にいたわけでも、中継映像を観たわけでもない水揮が知る術はない。

最終種目。

これまで個性を使っていない彼がそれを使うのは明白だった。
大きく腕を振りかぶった彼が出した記録は

《４６m》

機械音声に首を傾げそうになるも、隣の相澤が自身の首元へ手を伸ばしたのが視界に入り、水揮は納得する。

そう、彼はそういう個性なのだ。
その個性の前では、どんな強力な個性持ちでも無個性と化す。

捕縛武器で引き寄せられた男子生徒を横目に、水揮はボールの回収に向かう。

「(腕ぶっ壊すって何？…いくらなんでもハイリスクだろう…)」

「ボール投げは２回だ、さっさと済ませな」

「はい」

相澤からの拘束が解けた男子生徒へボールを差し出す。
驚いて飛び退く彼に懐かしさを感じながら、何か言いたそうな雰囲気に気付かないふりをして、水揮は「ん」とその掌に半ば無理矢理ボールを乗せた。
早々と彼から離れ、彼女は本日の定位置に戻る。
考える素振りでブツブツと呟く彼を暫く見つめる水揮の隣で、相澤は目薬を注した。

顔を上げて、大きく腕を振りかぶった彼に、水揮は目を見張る。

それは彼から感じた――"何か"。

そしてその"何か"に連なって頭を過ぎった、昨年の会話。

―…最近、また短くなりました?―

―えっ?!そうかな?!やっぱりそう思う?!―

―はい。というかやっぱりって……あの…なんですかその動揺。まだ何も言ってないんですけど―

―あ、ははは…キミやっぱ鋭いよね…さすがだ―

―実は……―

そうか、彼が。

あの時言っていた…―