『A』 (ページ2)

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「…相さん本当にイモムシみたい…」

「先生」

「相、澤せんせー」

「ん」

「……やっぱ慣れんです」とどこか拗ねた声音で、毎度恒例、紐を引く。
繋がる先、寝袋に包まれている相澤消太は「そのうち慣れる」と大人しく彼女に引きずられていた。
目的地に近づくうちに好奇の視線が増えるが、全く気にする様もなく会話は続く。

「あ、新入生のスカート覗いたらダメですよ？」

「それは何の得があるんだ？」

「わかりません。解構(かいこう)が言っていたので」

「(また変な事吹き込まれたのか…)」

間近に迫った目的地の前に、初々しい男女が見えた。
そのうちの一人、頬を染める男子生徒に彼女ははて、と首を傾げる。

確か彼は無個性だった。

そう考えているうちに、胸踊らす女子生徒の真後ろまで来てしまったのだが。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

ボソリとした下からの声は思いの他通り、彼らの会話は中断される。
「ここはヒーロー科だぞ」と栄養補助食品(ゼリー)を啜る相澤に、彼女は紐から手を離した。

驚きに染まった顔で相澤を凝視する彼らに見向きもせず、当の本人はのそのそと寝袋からその身を出す。

「はい、静かになるまで８秒掛かりました。時間は有限、君らは合理性に欠くね」

相変わらずの発言に、彼女は面の中で口角を緩める。
肩に掛かった紙袋の持ち紐をかけ直し、そのまま握った。

「担任の相澤消太だ。よろしくね。んでコッチが」

「…副担任の空無水揮(からなしみずき)」

視界の端で、先ほどの男子生徒の目が見張る。
想定内のリアクションに、これから起こすであろう彼からの接触には、最良の言動を心掛けようと、彼女は改めて誓った。

「早速だが、今から空無が体操着を配る。ソイツに着替えて全員グラウンドに出ろ」

その言葉に戸惑う生徒らを無視し、相澤は踵を返す。
それを尻目に、水揮はざわつく教室内に足を踏み入れた。