俺がやった悪い事はまだ分からないけど、千鶴が天使って事は分かったよ← 【薫成り代わり二章】

五十四刻 ページ43

ー朧視点ー

右京が外に出てすぐ、A様が帰ってきた。「もしや、何かあったのでは？」とA様の身を案じていたが、何事もなかったように帰ってきたA様の姿を見て

胸をほっと撫で下ろす。そして同時に、大事な事を思い出す。兄・佐吉が先ほどから姿を探しても、どこにもいないのだ

また家族を失う、その消失感が、不安と共に胸にこみあげてくる

A様の命を受け、なにかの調査しているのかもしれない。兄が動く時は、必ずA様の命を受けている、だからその可能性が高い

意を決して。嬉しそうな、楽しそうな、顔で。横を通り過ぎようとしている、A様の左袖を掴む


『朧、どうした。そんな切羽詰まったような顔をして』

さっきとは打って変わった、不思議そうな、だけど心配そうな顔を、私に向ける。その顔をみていると、罪悪感が湧いてくる

それでも、私はA様に訊いた


朧「先ほどから、兄の姿が見当たらないのですが。なにか御存じではありませんか？」

私はいったい、どんな顔〈表情〉で、A様に兄の事を訊いたのだろうか

A様は私の方へ向き直ると、手を握り、「心配ない」と言った


A『大丈夫、佐吉のには、ちょっとある女鬼の調査をしてもらってるだけだから。たぶん、もうそろそろ帰って来るよ』

優しく微笑まれ、次第に、心が落ち着きを取り戻す。そして、己の行動に羞恥から、顔に熱が集まっていく

頬に手をあて、顔隠す。その場に居たたまれない気持ちになったとき

暖簾から、兄である佐吉が顔をのぞかせた

その兄に向かって、逃げる様に突進した

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