第9話 ページ12
「Aどの」
「はい、何ですか?」
ゼンどのは何処か可笑しそうに笑う
「兄上の所に、行きますか?」
「え?」
何故、そう問われたのか、私には分からなかった。
「Aどのの顔に、書いてありますよ」
にこにこと笑うゼンどのに、不機嫌な色は見えず、それに安堵しつつも、また人の顔色を伺っている自分を心の中で叱咤する。
自分を変えると、決めたのに。
少しずつでも変われていると、思っていたのに。
「それに、Aどのも、疲れたでしょう。長々と付き合わせて、申し訳ない」
「そ、そんな事っ!」
思わず張り上げてしまった自分の声に、驚く。
でしゃばった。余計な事をした。
そう、思った。
でも、この気持ちは伝えたかった。
また、迷惑ではないのなら、少しでもいいから……そんな希望を、込めて。
「ゼンどの。今日は、有難う、御座いました。……私はまだ、ここに来てそんなに経っていなくて……元々の性格からも、人と話すのは、苦手で……でも。……でも、今日は、楽しかったです。イザナどのの、御兄弟に会えた事、話せた事。それだけでなく、ゼンどのと……イザナどのの弟君、ではなく、ゼンどのと話せた事が、嬉しかった」
私の目を見て聞いてくれるゼンどの。
私も、その真剣な思いを伝えたかった。
「だから、……迷惑でないのなら、少しでも、いいから……また、お話したい、です」
消え入りそうで、ちゃんと言い切れたかも、私には分からなかった。
でも、こうやって気持ちを伝えられたのも、全て……全て、イザナどののお陰で。
今日は、いろんなことがあった。
他の人には、ごく当たり前の日常の中に、でも確かに、私には初めての経験ばかりで。
緊張で不安になって、目が泳ぐ。
何処を、見ていればいいのか。
そっと探るように、ゼンどのを視界に入れる。
ゼンどのは、笑っていた。
「Aどの」
「は、はいっ……」
思わず上ずった声が出る。
「俺も、今日は楽しかったです。兄上の婚約者が、どうやって決まったのか、俺は知りません。でも、Aどので、よかった。本当に、そう思えました」
あの時、イザナどのからの申し出を受けてよかった。
そう思うのと同時に、自分の意思で受け入れなかった事を、深く後悔する。
ここは、知れば知るほど、魅力的もので溢れている。
“期待”が込み上げてくる。
自分から、一歩、踏み出したい。
そう、思わせてくれるようなもので、溢れている……
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ゆきな☆(プロフ) - 更新頑張ってください!楽しみに待ってます! (2020年4月20日 20時) (レス) id: eaaa1b941d (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 音織さん» 更新が遅くなって申し訳ないです。ゆっくり更新ですが、頑張りますのでよろしくお願いします。 (2018年8月30日 21時) (レス) id: c51862496b (このIDを非表示/違反報告)
音織(プロフ) - 初めて!音織です!いつも読ませて頂いてます!久しぶり更新嬉しかったです!無理せず更新頑張って下さい! (2018年8月30日 1時) (レス) id: 7413fe4c64 (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 天泣tenkyuさん» 文章を褒めていただけて、すごく嬉しいです!ありがとうございます。更新頑張ります(^^*) (2018年1月11日 17時) (レス) id: 1b7b0b02d0 (このIDを非表示/違反報告)
天泣tenkyu(プロフ) - 文章などが凄く好みで楽しく読ませていただいています!無理なく更新がんばってください(´ω` ) (2018年1月10日 22時) (レス) id: 6a5dbc60dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くるみ | 作者ホームページ:
作成日時:2017年12月3日 15時