◆塔の外の世界の人 1 ページ46
そんな会話を最後に、私たちは再び森の中を歩きだす。彼に目的地があるのか、ここがどこなのかも私にはわからない。ただ、彼の後を追うだけだ。
しばらく、また沈黙が続く。ふと、彼が口を開いた。
?「……腕。」
『腕?』
?「痛めなかったか?」
『痛めるって……。あ、さっきの?』
でも、どうして腕? 転んで打ったのは膝なのに……。
?「…………。」
彼は、きょとんとした私の反応に、ぶっきらぼうに言葉を続けた。
?「……狼種は。他の種族より、力が強い。さっき。咄嗟に腕を、引いたから。オマエも。痛いって言ってただろ。」
『……あ。』
そうだ。さっき彼は一度私を助けかけて、その途中で手を離した。
『……ふふっ。』
不器用な人だ。けれど、その優しさが嬉しい。
『大丈夫よ。痛めたわけじゃないから。ただ、変な角度で体重がかかっちゃったから、それで痛んだだけみたい。……気にかけてくれてありがとう。』
ひらひら、と先ほど彼が掴んだ腕を揺らして見せる。もう全然痛んだりはしない。先ほどのは彼の力加減云々というよりも、本当に単なる勢いと角度の問題だ。
?「……そうか。なら、良かった。」
ふいと彼は無表情でそれだけ言うと、また前を向いて歩きだしてしまった。
『…………。』
やっぱり、私には狼種が全部危険だなんて思えないわ。
彼は私を攫った誘拐犯だ。けれど、森に飛び降りた際にも私を庇ってくれた。そして今も、私が怪我をしたのではないかと気遣ってくれた。
……彼は優しい人、だわ。
そんな彼が、伝聞で聞くような凶悪で凶暴な種族だとは思えない。
『ねえ、あなたのお名前は?』
?「……名前? どうして。」
『だって、名前を知らないと不便でしょう? あなたって呼ぶのにも限界があるし。呼びかけるのに「ねえ、あなた」なんていうのもちょっとおかしい気がするし……。』
熟年の夫婦のようだ。もしくは、行きずりの関係か。
『「ねえ」だけで済ませるのは、なんだか味気がないわ。』
?「…………。」
『あなたが嫌なら、仕方ないけど……。あ、もちろん本名じゃなくてもいいのよ? 通り名だとか、あだ名でもいいし! まあとにかく私が呼んで、あなたが気づいてくれる名前なら何でもいいの。』
?「…………。」
……だめ、かしら。
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フフカ - はい!まってます今日もご苦労様でした。(^∀^#← (2016年4月13日 5時) (レス) id: eace5f3fac (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ありがとうございます! そうです、前とは少し内容を変えて書いてみました!! よくわかりましたね(^○^) これからも頑張りますので楽しみにしていてください!!! (2016年4月12日 22時) (レス) id: 23fff2c30d (このIDを非表示/違反報告)
フフカ - こんなに遅くからご苦労様です なんとなく今日も来ちゃいました!似ている小説だけど前とは違うので読んでます前より詳しく書いてあるのでとても分かりやすいです(#°∀°♭ 明日もまってまーす(笑) (2016年4月11日 22時) (レス) id: eace5f3fac (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - ありがとうございます! 頑張ります(^○^) (2016年4月10日 20時) (レス) id: 23fff2c30d (このIDを非表示/違反報告)
フフカ - 分かりましたありがとうございます誰オチにするか決まったら教えてください これからも毎日応援してます!!ガンバデス (2016年4月10日 19時) (レス) id: eace5f3fac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヒメア | 作成日時:2016年3月9日 20時