紙一枚の約束で ページ10
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お酒が飲める年齢になってわかったことがある。それは、どれだけわたしが大人になっても、直樹と対等にはなれないということ。
『はたちおめでと。今度一緒に飲むぞー』
簡潔だけれど彼らしいラインの文面に頬がゆるむ。どれだけ笑いの世界で結果を残しても、どれだけ遠い存在になっても、彼の声はいつもわたしだけに語りかけてくれた。
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直樹とわたしは9歳違いで、いとこである彼は年の離れたお兄ちゃんみたいな存在だった。まだわたしが小さかった頃、勉強を教えてくれたり、一緒に遊んでくれたりしていて。友達や兄のようでありながら、たまにふと、わたしよりずいぶん大人だなあと思うところもあって。彼は確実に、わたしの憧れだった。
……はずなのだけれど。気づけばどんどんかっこよく、大人の男のひとになっていく彼を見ながら、その憧憬の気持ちは好意へと変わっていった。彼を見ると単純にどきどきするし、一緒に話していると楽しいし、会えないと彼のことばかり考えてしまう。
いま思えば好きと憧れを勘違いしていただけなのかもしれない。けれどコンビニで買ったお酒を用意する直樹を眺めながら、ああやっぱりすきだなあ、とぼんやり思う。
「準備できた？」
「ん、できたよ」
「よし。じゃ、わたし、はたちおめでとー、直樹、優勝おめでとー、かんぱーい」
「お、おー、全部言ったな、かんぱーい」
無理やりに乾杯の音頭をとって、缶チューハイと缶ビールをぶつけ合う。
ビールを飲む直樹の横顔を盗み見ながら、アルコールが体に染みわたっていく感覚をおぼえた。
「ごめんな、ほんとは高い店連れてってあげる予定だったんだけどさ、仕事が立て込んでて」
「いいよ、全然。家のほうが落ち着くし」
直樹の家、久しぶりだ、と思う。優勝したからもっと高い家に引っ越すのかな、それとも誰かと結婚してから新居を買うのかな。直樹が結婚する頃、わたしは他の誰かを好きになれているのかな。
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作者名：徒歩 | 作成日時：2024年1月26日 0時
